脚本が面白かったです。
ドイツ人の妻とフランス人の夫、日常会話は英語のインテリ夫婦が、山奥の山荘で、視覚障害ある息子と犬と住んでいて、ある日突然、夫が落下死。
 
司法解剖のとき、不自然な頭部の傷があり、これは事故か自殺か他殺なのか?
裁判しながら様々な証拠と証言で立証していくなか、妻と夫のリアルな夫婦関係が炙り出される、というストーリーです。
 
視覚障害の息子を通じて、見えていること、見えないことの狭間で、観客は最後まで真実、真相はわからないまま、観る側に委ねられています。
 
真相と判決とは違う、ってことを言いたいんだろうな、と。
 
セリフ劇で、爆発や殺人シーンなど派手な演出はなく、立証と裁判が続いていく感じです。
フランス映画なので、ハリウッド映画とは違い、中には退屈だと思う人もいるだろうけど、
私は眠気を誘われることもなく、ずっと引き込まれた。
すっごくリアルで演技がすごかったので。
 
ただ、犬まで演技がすごくてどういう訓練受けてるのか驚いてしまった…驚き
あの犬は撮影のために、変なことされてないか、大丈夫なのか、とても心配になってしまった…。
 
落下の解剖学というだけあって、立証の仕方が細かくて面白かった。
人形使って、屋根裏の窓からどのように男が落ちていったのか?
謎の頭部の傷は、落ちた時、弾みでぶつけた傷ではないか?とか、雪の溶け方で血痕がどう流れるか、とか、爆音BGMが流れる中での会話の立証など。
 
妻による殺人だという検察のほうは、凶器の物的証拠なくて笑、職業が小説家だから、バイセクシャルだからとか、初めは責め方が偏見じみてたかな。妻を嫌な印象にさせようと必死にしていた感じでした。後半からちゃんと証拠でてくるけど。なんか、あの人だけ違う作品から来たキャラクターのような笑。
 
私の考察としては、聴覚記憶が優れてる息子が、なぜ勘違いをした、といったのか。なぜあの弁護士を選んだのか。
というのが、深く読むキーワードだと思いました。
 
結局、この脚本は、自殺か他殺か事故なのかって、名探偵コナン的なトリック、謎解き、アリバイ考察、ではなくて、
夫婦関係、人間関係へのメスが入り、炙り出すのが面白いところなので。
 
 
以下ネタバレあります
 
 
 
 
私は夫婦喧嘩で殴った末、クロじゃないかと思った。
様々な立証、証拠があっても、結局、心証がいい、悪いに左右されて、録音データ証拠で最悪な心証になったところ、息子の最後の証言で覆された感じでは。
 
息子のあの証言はある意味では真実ではあるだろうけど、父親自身が自殺を示唆して発言していたとは思えない。
自殺を示唆していた、という息子の心証(心象)操作が入っていたと思う。
 
しかし、11歳で愛犬にアスピリン飲ませて状況立証する息子のほうが怖いんですけど〜驚きガーンド~ン引き。
そんなこと愛犬に絶対できるわけないだろ!って全世界の愛犬家、総ツッコミだと思った。
自分の兄弟のような、パートナー犬なのに、アスピリン多量に飲んで死ぬかもしれないのに、なぜそこまでするの!?って。
それこそあの親にしてこの子ありだと思いました…真顔
 
でも、盲目ではないにしろ弱視で、常に両親に守られ、学校にもそんな通ってない、犬以外、友人もいない、弱い彼の身、立場になってみればわかること。
もし、ベストセラー小説家のママが有罪になったら、彼は今後、どれだけ大変な身の上になるか。
その先を想像してみたら、勘違いで証言撤回したのと、最後の証言はよくわかることだと思う。
ママは、転んでもただじゃ起きない精神で今回のことも私小説として書いたり、焼けぼっくいに火がつく感じで弁護士とデキて生活も安泰するかもしれない。
自身の保身のため、疑わしい真相は、墓まで持っていく覚悟を決めたんじゃないかなと。
 
残酷なこといえば、バイセクシャルで魅力的でサイコパスなベストセラー小説家のママと、無名で鬱病の父では、子供の中でも価値が違うかもしれないしね…。
 
この映画のよさは、自分がまるでその裁判を傍聴しているかのような、そんな錯覚するくらいリアルなこと。
弁護士って職業上、親身になってくれるけど、依頼人とは線をドライに引くものなので、この映画の弁護士は依頼人に相当惚れてこんでるなと思った。過去に片思いしてた女が、成功し、有名人になって、自分に弁護を求めてくるなんて、彼にしてみたらそそられたのでは。彼女がクロだと気づいたにしろ。打ち上げの時はラブロマンスのワンシーンのようでした。あれもフランス流?笑
 
というのも、実は私も20歳から裁判所へ通い、裁判までいかなくても、血縁者と調停していたレアな若者であったので、この映画観て、当時を思い出した。
毎日すごく疲れていた。不動産鑑定、筆跡鑑定、帳簿や口座を調べたり。結局、証拠のぶつけ合い合戦です。
思い出アルバムに残るような幸せな思い出より、耐え難い辛い人生経験こそが、自分の人格形成の軸になっていると考えているので、一皮剥けるためには悪くない経験でしたが、まだ青臭い時期にあの数年間は本当にしんどかったな笑。
昨今、個人的にも心を痛めた事件がありました。それこそ自殺なのか他殺なのか。未だに・・・。司法解剖したとしても、疑わしいことがたくさんあったけど、死人に口なし、真相は闇の中ですね。