キャンセルが済んだはずの不動産屋から
電話が入った。

なんだろう?と思いながら出ると


「キウイさん、
   大変なことになりました。

   キウイさんもしかして
   他の不動産屋さんでこの物件見てますか?」


え、なに?
大変なことって。


「…はい、そうです。」




「大家さんから連絡が来まして
   この人、他の不動産屋からも申し込みが
   あったんだけど、どういうこと?

   この人、いったいどんな人なの?

   と、不審がられています。
   このままだと契約できないかもしれません。

    僕が上手いこと言っておきますので
    今すぐそちらの不動産屋さんを
    キャンセルしてください。」




え?
どういうこと?

不審がられている?



目の前が真っ暗なった。

引っ越しの予定も1週間後に決めたかった。
もう、引っ越し屋の見積もりのお願いもした。

他に条件に合った物件はなかった。





なんで私ばっかり…

せっかく前を向いていこうと思ったのに…


どうして思うようにいかないんだろう…








電話を切って、
すぐに契約予定の不動産屋に電話をした。


恐る恐る事情を説明して、謝罪した。

借りれないのは困る。
引っ越せないのは困る。

早急に引っ越したかった。



すると、
「その話、絶対おかしいですよ!
   大家さんはそんなこと言いませんよ。
   僕が直接話してみます。

   でも、〇〇不動産が仮押さえを外していないんですよね。
   これを外してくれないと
   キウイさんの契約が入れられない。
   
   このまま放っておけば、
   明後日には無効になる仮押さえです。

   〇〇不動産からの電話は無視しておいて
   大丈夫です!
   大家さんとはしっかりお話しておきますから」



え?

どういうこと?


なんだか絶望感で頭が回らなかった。



〇〇不動産の担当の人には
もう契約できないかもしれないというようなことを言われた。

あの人と話をするのは怖くてできない。






もう、何もかも
怖くなってしまった…

母子だけで生きていくのが怖くなった。





この時の私は、
ただでさえダメージがあったのに
頑張って、頑張って、
前に進もうとしていた。

それが一気に恐怖に変わってしまった。










携帯にはまた、〇〇不動産から電話が。

留守電にメッセージが入った。


「キウイさん、〇〇不動産です。
   キャンセル手続きは整いましたか?
   ご連絡お待ちしております。」





怖い…
この人怖い…





もう病的な恐怖だった。











今思えば、なんてことないのだけど。笑笑








また着信が入る。

泣いていてもしょうがない、出よう。
契約する予定の不動産屋さんを信じよう。




「…はい」



「あ、キウイさんですか?
   キャンセルの手続きは整いましたか?」



「…あの、もうひとつの不動産屋さんが
   そんなことはあり得ないと言っていたのですが」



ものすごくビビりながら言った。






すると、

「え?
   あー、えと、それはー
   そういう可能性があるという話なだけで…」






ん?
おかしい?






「あの、大家さんが怪しまれていると
  おっしゃってましたよね?」


「いや、それは…
   そうなったら困るなぁと…」





やられた。
こいつ、ハッタリだ‼︎

自分のところで契約が欲しいがために
こんなこと言いやがった‼︎











あんなにオドオドして
涙を流しながら怖がっていた私だったが、



本来、
私は、そんな性格ではありません。


ガツガツ言えます。



思い出せっ‼︎

キウイ、自分の性格を思い出すんだ‼︎‼︎







「あの、あなたではお話にならないので
   上の方に変わっていただけますか?」



「はっ…はい…」




「もしもしぃ〜〜
   お電話変わりましたぁ
   キウイ様、いつも大変お世話になっております!」

軽快な口調と、やたら語尾を伸ばすその口調に
更に私の怒りは増した。








今思えば、夫に言われ続けた。


「キウイさんの
   理詰めして責めてくるのが
   耐えられない」

と。





きました来ました、発揮する時が。