地球に住む大学院生の井森健は不思議な夢を見る。
自分が人語を解するがかなり間抜けな蜥蜴のビルになり、不思議の国に住んでいるという夢だ。
ビルは、ひょんなことから不思議の国を出て、異世界(ホフマン宇宙)に迷い込んでしまう。
そこでクララという車椅子の少女とお爺さんに出会い、会話を交わす。
夢から目覚めた井森は、「向こうの世界でも会おう」というお爺さんの言葉通り、地球でも車椅子の少女露天くららと、夢に出てきたお爺さんそっくりのドロッセルマイアー教授に出会う。
井森は、くららの命を狙っているという犯人の捜査を引き受けることになるのだが…。
「アリス殺し」の続編ですね。
時系列的にはどうなのかよくわかりませんが、世界観を共有する作品です。
「アリス殺し」も読みましたが、かなり面白かったです。
まず設定がわかりにくいと思いますので、少し説明をしておきます。
この作品の世界では、ドロッセルマイアーがホフマン宇宙と呼ぶ不思議な世界と、前作に登場した不思議の国のアリスを元にした奇妙な世界(不思議の国)、そして現代社会に酷似した地球という世界が存在しています。
ホフマン宇宙と不思議の国の繋がりは定かではありませんが、その二つの世界と地球は夢で繋がっています。
井森はビルのアーヴァタールで、互いに別の人格を持っていますが、記憶を共有しています。
また、元不思議の国の住人であり、ホフマン宇宙に迷い込んでしまったビルが死ぬと、地球に生きる井森は死んでしまいます。
逆に、井森が死んでも、ホフマン宇宙のビルが生きている限り、何度でも復活するようです。
つまり、本体がビルということですね。
こういった二つの世界に存在する人物が、この作品世界では何人もいて、物語に絡んできます。
「クララ殺し」はかなり複雑な物語で、私の鈍い頭ではなかなか理解し難かったですが、この世界設定と、不思議な登場人物たちは魅力的ですし、会話を追っているだけでも面白かったです。
ビルの間抜けぶりにイライラされる方もいるかもしれませんが(^^;
ミステリとしても、意外な真相で驚かされましたね。
ΑΩの諸星隼人や、新藤礼都、岡崎徳三郎などのお馴染みのキャラクターが登場して、そのあたりも楽しめました。
また、ホフマン宇宙の設定が、E・T・A・ホフマン作品のパロディーになっているので、元作品を知っているとより面白いと思います。
私はホフマンの作品を全然読んだことがないので、わからなかったのですが…。
それでも、巻末の解説を読むだけで、ああ、こんな元ネタがあったのか、とわかった気になれるので良かったです(笑)