あっという間に試合は終わってしまった。まだ、気持ちは高ぶったままだ。賑やかな観客席の下を潜るように裏方さんが集まる会場外の控室前のフロアに向かった。試合終了後にラインジャッジ5名と記録員とアシスタントスコアラーはファーストレフリーとセカンドレフリーにご指導いただくために集まることになっていたのだ。ラインジャッジの4名は試合が終わったのにまだ、緊張が解けていないようで皆、顔が引きつっていた。もちろん俺もそうだと思う、、、。 


 記録員の問題は何回か確認動作が遅くなっただけだったので笑顔で返答されていて、、、ホッとしているようだった。 っが、しかし、ラインジャッジの番になったらファーストレフェリーは顔をしかめて話し出した。顔の前に右手を広げて左手でブラッシングの動作をして、、、話す言葉が判らなくてもワンタッチが分からないのは困るっていっていることはしっかり感じることができた。話の最後にしっかり俺の目を見つめられたので、ああ、俺のことだってまたまた、変な汗がでた。

 その後、日本の審判団が集まった場面でも個人的な中傷はされなかったが、やはり、ラインジャッジのワンタッチについて「もうちょっとしっかりしなければ、、、」、「なんで見えないんだ!」っと明夫さんは独り言のように繰り返していた。

 俺自身、緊張は解けてきていたが胸に何かが突っかかっているようで平常心にはなかなかなれなかった。そんな中、少し重くなった空気をとっぱらうかのように明夫さんが「さぁ、早く片付けて出かけるぞ」ってこれまた独り言のように声をあげた。

審判の世界では、良い審判員になるってことは、人一倍失敗して、人一倍嫌な思いもするってことがよく言われるが、これだけ失敗やいやな思いをすれば、さぞかし俺は良い審判になるのだろうっと、、、自分を励ます術はもう、こんなことを思うくらいしかなかった。ああ、穴があったら入りたいってこんな心境のことなんだろう。とにかく、今日のところは浜松アリーナから一刻も早く脱出せねば、、、。金魚のフンみたいにみんなについていって仲間の車に乗り込み、ワールドカップ会場である浜松アリーナから脱出していった。