フロントガラスから見る外の景色は真っ暗。 でも、車内で緑色に輝くデジタルウオッチはまだ18:15を示していた。 バイパスは空いていて、車はスムーズに西に向かって走っている。 慣れない人の車の運転、助手席には明夫さんが裸足にサンダルを履き、足を組んで座っていた。 バイパスの折口を見つけ、下って行くと周りは、外灯も無い暗闇の田んぼ、、、田んぼ。 明夫さんの指示に従って車を進めると直ぐに目当ての体育館についた。 田んぼの中の体育館だったが、暗闇のせいか、一般的な体育館と違って重厚感があるように感じた。 ここは、以前、小学生の東海大会の決勝戦でIF(記録員)をやらせてもらった会場だったことを思い出した。 


 ひと気の無い、体育館に入っていくと真新しい白木のフロアが照明を浴び輝いていた。 中央にはコートが1面張られていて、2、3人の人がその近くでしゃがみ、何やら作業しているようだった。 よくみると、1人はマスキングテープ (元からあるラインを消すためのベージュ色のテープ)を貼り、もう1人は、アタックラインの延長破線 を貼っていた。 こんばんわ、私が声を掛けると作業しながらこちらを向いて、あっ、ありがとうございます。こんばんわ! 、、、続いて明夫さんが、おぅ、どうだ! 、、、今度は、作業を止め、立ち上がりながら、はい、一応、ここまで出来ましたが?、、、あぁ 、、、確認してもらえますか?、、、・・・・・・・。メジャーあるか? 、、、、は、はい、今・・・。」 


 この体育館は今回行われるワールドカップ2003練習コートに使うということなんで、協会の競技役員がコートを作っていたのである。 県内のメイン会場となる浜松アリーナに大勢の役員が行ってしまっているため、こちらの会場が手薄になるということで明夫さんと2人で先にこちらのコート作りを手伝ってから、浜松アリーナに向かうことに決めていたのである。


 コートはいいけど、ネットはダメだ! 、、、・・・・、はい! 、、、張り直すぞ! 今度は私が、あっ、はい!」 1度シッカリ完成し、マーカー も白いビニルテープで固定されていたが、もうテープを一度剥がして、そしてネットも外した。 支柱の高さもシッカリとメジャーで計ってから、ネットのワイヤーを掛けた。 クランクをグルグル回しワイヤーを巻きつけ、ワイヤーを強く張っていくと、硬い支柱は大きく曲がり、しなっていった。 ネットも強く、しかし形を崩さないように、、、引っ張ったときの伸びも計算して、、、、そして、コートは出来上がった。 少人数だったが連携してうまくできたようだった。  じゃあ、後は、任せたぞ! っと明夫さんは競技役員たちに声をかけ、、、次に私に向かって、おい、行くぞ! 、、、、、あっ、はい!」 そして、再び暗闇のバイパスに載り、みんなが集まっている浜松アリーナへと黒塗りのシーマを走らせた。


 全く経験の無い、初めての国際大会、ワールドカップ2003男子。 審判役員としてラインジャッジ(線審)をするかもしれなかった。 サマーリーグ男子、大学リーグ男子で多少練習し、なるべく早い球になれるように努力はしていたが、果たして上手くできるのか、期待と不安で普段より幾分鼓動が早くなっているようだった。