第6回『リサイクルの嘘 ― 棄てられた物の声』

【はじめに】

意匠権や特許権は、新しく美しい製品や、便利な技術を保護するためにあります。しかし、その輝かしい創造の裏側で、私たちはどれだけの「ゴミ」を生み出してきたでしょうか。製品のライフサイクルが極端に短くなり、使い捨てが当たり前になった時代。その終着点を、私たちは直視しなければなりません。

今回は、創造の影に隠された「廃棄」という名の罪をめぐる物語です。


【ものがたり】

翠ヶ丘に、不吉な知らせがもたらされた。集落の水源である沢の上流に位置する《廃棄層》から、微量の毒素が検出されたのだ。《廃棄層》――それは、《古の狂乱時代》に生み出された膨大なゴミが、圧縮され眠る巨大な地層。いわば、過去の文明が遺した巨大な墓標だった。

「このままでは、沢の水が飲めなくなる。地層ごと焼き固めるしかない」

自警団のテツが提案する。旧時代の技術を使えば、高温のプラズマで汚染を封じ込めることは可能だ。しかし、それは膨大なエネルギーを消費し、未知の副産物を生む危険な賭けだった。

 

ミナトは、何か他の方法はないか、自らの目で確かめるために《廃棄層》へと向かった。

崖を削って作られた地層の断面は、おぞましい光景だった。色とりどりのプラスチック、錆びた金属、そして、腐敗もせずに原型を留めた無数の衣服。それはまるで、文明の化石だった。

「カナエ、この衣服、解析できる?」

ミナトが手に取った派手なシャツを、AIのカナエがスキャンする。

「素材はポリエステル。製造年は《大静粛》の約50年前。平均着用回数は、3回と推定されます」

「3回…?」

3回着るためだけに作られ、そして数百年もの間、土に還らずに残り続ける。ミナトは、その事実の重さに言葉を失った。

 

その時、ミナトの足が、硬い記録媒体(ストレージ)を踏んだ。防水・耐衝撃ケースに守られた、旧時代のデータアーカイブだ。工房に持ち帰り解析すると、それは《廃棄層》がまだ「リサイクル・プラント」と呼ばれていた頃の、運営記録だった。

 

記録映像には、ベルトコンベアを流れる大量のゴミと、「資源を未来へ」という明るいスローガンが映し出される。しかし、作業ログを追うと、奇妙な事実が浮かび上がった。回収された資源の実に8割以上が、「再利用」ではなく「B-29地区へ移送」と記録されていたのだ。

「カナエ、B-29地区ってどこだ?」

「座標照合…現在の地図には存在しません。旧時代の記録によれば、海洋の向こうにあった、経済的に貧しい国の沿岸部を指すコードです」

つまり、リサイクルとは名ばかりの、ゴミの「押し付け」だったのだ。自分たちの目に見えない場所へ廃棄することで、罪悪感を薄め、大量消費を続けるための、巧妙な嘘のシステム。ミナトは、背筋が凍るのを感じた。

 

彼は“じいじの手紙”に、このことを裏付ける一節を見つけた。

『私たちは「リサイクル」という言葉に酔いしれていた。分別し、箱に入れれば、魔法のように消えてくれると信じていた。だが、実際には、ただ見えない場所へ移動させていただけだった。本当の「もったいない」とは、再利用することではない。そもそも、余計なものを手に入れないこと、持たないことだと、なぜ気づけなかったのだろう』

 

集会所で、ミナトはプラントの記録を皆に見せた。

「僕たちの足元にあるのは、ただのゴミの山じゃない。見ないふりをされた、たくさんの嘘の塊なんです。これを焼き払うことは、また同じ嘘を繰り返すことにならないでしょうか」

テツが怒鳴る。「ではどうしろと言うんだ!この毒を、指をくわえて見ていろとでも言うのか!」

「いいえ」とミナトは静かに、しかし強く言った。「僕たちの手で、修理するんです。この、壊れてしまった地球の一部を」

 

ミナトが提案したのは、途方もない計画だった。廃棄層のゴミを少しずつ掘り起こし、修復師の技術で使えるものと使えないものに手作業で分別する。そして、本当に使い道のない廃棄物だけを使い、毒素を封じ込めるための分厚い「壁」を、沢との間に築き上げるというのだ。

それは、過去の罪から目をそらさず、自分たちの世代で受け止め、未来への防波堤とする、気の遠くなるような「修復」作業だった。

 

ハナばあが、ミナトの隣で静かに頷いた。

「それがいいね。自分たちの過ちを、自分たちの手で清める。それこそが、未来へ顔向けできる、たった一つのやり方さ」

その言葉に、集落の人々の心が、少しずつ動き始めていた。


【ひとこと】

物語で明らかになった「リサイクルの嘘」は、現代の「計画的陳腐化」という問題と深く繋がっています。企業が意図的に製品の寿命を短く設計し、消費者に次々と新しいものを買わせるビジネスモデル。このモデルを支える知的財産戦略も、残念ながら存在します。

 

しかし、時代は変わりつつあります。近年、欧州を中心に「分解・修理のしやすさ」を製品設計の必須要件とする法規制が広がっています。これは、知的財産のあり方にも変化を促します。これからは、単に美しいデザイン(意匠権)や便利な機能(特許権)だけでなく、「いかに賢く分解し、再資源化できるか」という解体技術や、廃棄物を新たな価値ある製品へと昇華させる「アップサイクル」の技術にも、高い特許的価値が認められるようになるでしょう。

創造の責任は、創造したものをどう終わらせるか、という点にまで及ぶのです。