仕事帰りにいつも通る小さな路地があります。

最初はごく普通の路地だと思っていました。古い家が数軒あり、小さな空き地があって、人通りも少ない細い道です。

ところが、ある日からいつも同じ猫を見かけるようになりました。

茶トラ猫です。

不思議なことに、私が仕事を終えて帰る時間になると、必ずその猫が現れるのです。

最初は偶然だと思いました。

しかし、数日経っても、一週間経っても、変わらずそこにいました。

塀の上に座っていたり、車の下で休んでいたり、ときには路地の真ん中で人間を眺めていたりします。

気が付くと、私も路地に入るたびに猫を探すようになっていました。

「今日はどこにいるかな。」

それが帰宅途中の小さな楽しみになったのです。

 

 

数日前、大雨が降りました。

いつも塀の上にいるはずの猫が見当たりません。

なぜか心配になりました。

雨に濡れていないだろうか。

ちゃんとご飯を食べただろうか。

どこか具合が悪いのではないだろうか。

すると、路地の奥にある小さな物置の軒下で雨宿りしている姿を見つけました。

猫は少しだけ顔を上げて私を見ました。

まるで、

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

と言っているようでした。

思わず笑ってしまいました。

人と地域猫の関係は不思議なものです。

一緒に暮らしているわけではありません。

けれど、まったくの他人でもありません。

毎日すれ違いながら、お互いの存在を確認するだけ。

それなのに、いつの間にか情が湧いてしまいます。

今日もまた、その路地を通る予定です。

きっと茶トラ猫は、いつものようにどこかでのんびりしているでしょう。

そして私は、また無意識にその姿を探しているはずです。

そんな小さな出会いこそが、一日の終わりを少しだけ特別にしてくれるのかもしれません。

 

 

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