正直、私はうちの近所の猫たちのことは結構知っている方だと思っていました。 毎日の通勤途中に出会う茶トラが1匹、公園のベンチの近くでよく見かける三毛猫が1匹くらいは区別がつきますからね。たまに写真も撮ったり、ごはんをあげたりもしていたので、自分ではそれなりに「ご近所猫マスター」のつもりでした。

その自信が完全に打ち砕かれたのは、数日前のことです。

仕事帰りに路地の入り口で猫を見かけ、しゃがみ込んで写真を撮っていたら、後ろから近所のおばさんが声をかけてきました。 「この子、足よくなったねぇ」 私は一瞬、何のことかわかりませんでした。 猫をまじまじと見返しても、特に痛そうなところは見当たらなかったからです。 「足を怪我してたんですか?」 私が尋ねると、おばさんは当然のように言いました。 「1ヶ月くらい前に車に軽く接触しちゃってね。病院にも連れて行ったのよ」 その言葉を聞いて、本当にびっくりしました。 私は毎日ここを通っているのに、そんなこと全く知らなかったからです。

でも、本当に驚いたのはここからでした。

 

 

しばらくすると、散歩に出てきた別のおばさんが合流したのですが、お二人の会話はもはや「猫ニュース速報」のレベルでした。 「ミケちゃん、昨日病院に行ったんだってね」 「あぁ、耳の治療をしてるって聞いたわよ」 「クロちゃんはもうすっかり良くなったわ」 「そうそう、先週から引きずるような歩き方もしなくなったよね」 「シロちゃんが子猫産んだの知ってる?」 「5匹らしいわよ」

私はただ、隣で呆然と聞き入るしかありませんでした。 一体どこからそんな情報を仕入れてくるのか、不思議でたまらないほどでした。 一匹の話が終わると、また次の猫の話へと続いていきます。 どの路地のごはん係の人が変わったという話から、最近新しく現れた猫の話まで、次から次へと溢れ出てくるのです。 おまけに、私は見たこともない猫の名前が何十匹分も飛び交っていました。 マメちゃん、ニャンコ、ブチ、シロ、ミケ、クロ……。 まるで「ご近所猫の住民票」でもあるかのようでした。

その日、家に帰ってから思い返してみると、なんだか少しおかしくなりました。 ネットの世界では、SNSやコミュニティで情報共有すると言いますが、うちの町内に限っては、今でもおばさんたちの「口コミ」が一番早いようです。

もしかすると、近所の猫たちの最新情報は、ネットで検索するよりも、ベンチに座っているキャットマムに聞く方がよっぽど正確で確実かもしれません。

次は私も勇気を出して聞いてみようと思います。 毎日見かける、あの茶トラの名前から。 もしかしたら、私だけが知らない「本当の名前」があるかもしれないですからね。

 

 

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