路地裏の茶トラ猫の怪しい私生活
今朝はいつもより少し肌寒い朝でした。適当に上着を羽織ってゴミ出しに出かけると、案の定あいつがアパートの駐車場の隅に座っていました。
私が「ノランイ」と呼んでいる茶トラの野良猫です。しっぽの先が少し曲がっているので、遠くから見てもすぐに分かるんですよね。
「ノランイ、ご飯食べた?」と声をかけると、面倒くさそうにしっぽを一度だけパタッと動かしました。
缶詰をひとつ開けて置いてやると、ようやくのそのそと近づいて食べ始めます。食べ終わると私のズボンに頭を軽くこすりつけ、そのままクールに塀の向こうへ消えていきました。
たぶん、この瞬間があるから毎朝缶詰を運んでしまうのでしょう。
ところが昨日の午後、とんでもない事実を知ることになりました。
久しぶりに近所の美容室へ髪を切りに行った時のことです。店長さんと世間話をしていると、突然窓の外を見て嬉しそうに叫びました。
「まあ! ナビが来たわ! ナビ〜!」
そう言うと、引き出しからちゅ〜るを取り出して外へ飛び出していったのです。
気になって私も外を覗いてみると、そこにいたのはなんとノランイでした。
しっぽの先が曲がったあの茶トラ猫が、店長さんの前で愛想を振りまきながらちゅ〜るをもらっているではありませんか。
しかも私には一度も見せたことのない、お腹を見せてゴロンと転がる大技まで披露していました。
「この猫、ナビっていうんですか?」
そう聞くと、店長さんは「もう1年以上、毎日ここに来る常連さんなのよ」と笑いながら教えてくれました。
私が「私はノランイって呼んでるんですけど……」と言うと、店長さんは大笑い。
なんとこの猫、私からは朝ご飯をもらい、美容室では『ナビ』という名前で午後のおやつまで確保していたのです。
少し裏切られたような気持ちになりながらも、その賢さに思わず笑ってしまいました。
同じ路地で二つの名前を持って生きているなんて、なかなかのやり手です。
しかし、話はこれで終わりではありませんでした。
髪を切り終えて帰る途中、アパート201号室に住む大学生の知り合いと会いました。
コンビニの前で猫を撫でていたので近づいてみると、またしてもあの猫だったのです。
今度はコンビニ前の椅子に堂々と座り、大学生からもらった鶏むね肉を食べていました。
「チーズ、ゆっくり食べなよ。」
その言葉を聞いた瞬間、私はしばらく固まってしまいました。
ノランイ、いやナビ、いやチーズ。
この猫、一日に何食食べているのでしょうか。
最近少しお腹周りがふっくらしてきた気がしていましたが、ちゃんと理由があったのです。
近所の人たちを見事に手玉に取りながら暮らしていたのでした。
家に帰ってコーヒーを飲みながらスマホを触っていると、ふと思い出しました。
最近よく使っているStrayKittyアプリで、野良猫の情報を確認してみることにしたのです。
地図を開いてアパート周辺を拡大すると、やはり一つのピンが登録されていました。
ところが、そこに登録されていた名前はまた別のものでした。
その名前は――
「ホドゥ」
でした。
顔がクルミみたいに丸いからという理由で、誰かが写真付きで登録していたのです。
美容室の店長さんや大学生の友人、そして私以外にも、この猫を気にかけている人が近所にいたのでした。
登録内容を読むと、夜9時頃になるとアパート裏の空き地によく現れるそうです。
その時間にはカリカリではなく、干しタラのおやつをもらっているとのこと。
朝は私の前で**「ノランイ」**として缶詰を食べ、
午後は美容室で**「ナビ」**としてちゅ〜るをもらい、
夕方はコンビニ前で**「チーズ」**として鶏むね肉を食べ、
夜は空き地で**「ホドゥ」**としておやつをもらう。
もはや普通の会社員よりもスケジュールが詰まっている気がします。
私だけが「ちゃんとご飯を食べているかな」と心配していた時間が少しむなしくなりました。
でも同時に、なんだか嬉しい気持ちにもなりました。
みんながそれぞれ違う名前で呼びながらも、同じようにこの猫を気にかけていたからです。
今夜はまた、どんな名前で路地を歩き回っているのでしょうか。
確かなのは、このエリア最高のプロ副業猫が人間ではないということです。
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