異様な光景だった。2016年1月18日、「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)が始まると、そこには暗幕を背に黒いスーツ姿の5人が立っていた。


「公開処刑」と呼ばれて有名になった会見は、何がそれほど異様だったのか。その異様さの根源は何だったのか。


20年以上にわたり「SMAP×SMAP」を担当した放送作家の鈴木おさむさんが刊行した小説 『もう明日が待っている』 を読み、5人の精神状態を分析するために8年ぶりに「公開処刑」の映像を見直すと、当時は気づかなかった5人の感情が伝わってきた。 


「SMAP×SMAP」の生放送開始と同時に目に飛び込んできたのは、葬式のような黒い幕の前に立つメンバーたち。


全員が黒のスーツにネクタイ姿だが、ネクタイの色が1人1人微妙に違う。おそらく事務所側が用意したものだろうが、他の4人が黒系なのに対して、木村拓哉さんだけが白系のネクタイをしている。


「これは解散しかない」と思わせるインパクト 当時は彼らを育てたマネージャーとジャニーズ事務所(現STARTOENTERTAINMENT)の確執が表沙汰になり、SMAPメンバーの退所や独立が騒がれていた。


しかし木村さんだけは事務所に残るとも報じられていた。ネクタイにも、1対4の構図は現れていた。 


SMAPの5人は全員、「逆らえない、抗うことができない」という無力感を漂わせ、沈痛な面持ちで手を身体の前に組んでいた。 


不祥事を起こしたわけでも、被害者を出したわけでもない。“世間を騒がせた”ということへの謝罪にしては、場の設定も服装もあまりにやり過ぎていた。これは解散しかない。そう思わせるインパクトがその映像にはあった。 


真ん中に立っていたのは、リーダーの中居正広さんではなく木村さん。並び順が普段と違うことにも、この会見を設定した事務所の意向は反映されていた。


 口火を切ったのも木村さんだ。中居さんと草彅剛さんは視線を落としたまま動かず、香取慎吾さんは目をつぶったまま。稲垣吾郎さんは遠い目をしていた。


 重苦しい空気の中、木村さんが口にしたのは謝罪の言葉、そして「このままだと空中分解になりかねない状態だと思いましたので、今日は自分たち5人がしっかり顔を揃えて皆さんに報告することが何より大切だと思いました」と発言した。 木村さんの視線から、目の前に用意されたコメントを読み上げていることがわかる。彼の言葉ではなく、用意されたコメントの中に“空中分解”という言葉があったことになる。


 続いて稲垣さんが淡々とした表情で「申し訳なく思っている」と頭を下げた。


 役割に忠実だった木村、稲垣と違い、香取は不満を露わに 与えられた役割に忠実だった2人に対して、香取さんははっきりとやりきれなさや不満が仕草に現れていた。 自分の番が来ると、まず左手の上に組んでいた右手を握りなおす。何を謝っているのかよくわからない謝罪の言葉を口にした後、足を揃えて背筋を正し、誰よりも深く頭を下げた。だが、顔を上げても次の言葉が出てこない。ここで、彼はごくりと何かを飲み込んだように見える。 憤り、怒り、悲しみ、どうしようもない思いを一度飲み込んでしまわないと、次に用意された言葉は口にできない。そんな印象の仕草だ。 事務所から“与えられた”コメントは「皆さまと一緒にまた今日からいっぱい笑顔をつくっていきたいと思っています」。 表情のない顔で、力のない声でそう述べる香取さんを見て、心からこの言葉を口にしていると思う人はいなかっただろう。 


草彅が言いよどんだ「ジャニーさんに謝る機会を木村君がつくってくれて」 続いて中居さんも謝罪の言葉とともに頭を下げるが、その表情は暗い。コメントもとても短いものだった。事の成り行きを説明することもなければ、釈明もいいわけもない。 


最後に、草彅さんの番が来た。前を向いて口を開きかけたが、そこで一度発言を飲み込んでいる。その後、意を決したように彼が口にしたのは「皆さんの言葉で気づいたこともあった」という何の変哲もない感謝のコメントだった。躊躇するような内容ではない。 だが次の一言は、彼の躊躇の理由を推測するのに十分なものだった。 「今回ジャニー(喜多川)さんに謝る機会を木村君がつくってくれて、今僕らはここに立てています」 視線を落としたままそう述べると、さらに続ける。 「5人でここに集まれたことを安心しています」 暗いトーンで単調に言い切ったが、それに頷く者は誰もいなかった。 草彅の姿勢から伝わってくる、

敗北感に似た「虚しさ」 鈴木さんの小説には、このコメントが「ソウギョウケ」の強い意向だったと書かれていた。それをツヨシに頼んだ、とも書いていた。会見を象徴する「ジャニーさんに謝る機会を木村君がつくってくれて」というコメントを割り振られたことを知った時、彼は敗北感にも似た虚しさを感じたのではないだろうか。視線を落としただけでなく、うなだれたようにうつむいた姿勢に、彼の心の内が現れていたと思う。 


この会見を分析して改めて気づくのは、5人の心理状態以上に事務所側の思惑が伝わってくることだ。事務所側がSMAPの存続を最優先にしていたとすれば、決して黒バックに黒いスーツというセッティングは選ばない。


 これがもし嵐の活動休止会見のように、全員が色とりどりのコーディネートだったら、たとえ同じコメントを述べたとしても印象はずいぶん違ったものになったはずだ。


しかしそれ以上に、事務所に盾ついたことへの見せしめという意味が強かったのだろう。 


最後に木村さんが「何があってもただ前を見て進みたい」とコメントし、「皆さんよろしくお願いします」と全員で頭を下げた。


だがこのお辞儀も不自然だった。5人がバラバラで、SMAPがすでにグループとしてのまとまりを失っていることを印象づける挨拶だった。 この会見は、確かにSMAPというグループに対する公開処刑だった。

(岡村 美奈)


YahooNewsより