ついに…この時が来てしまったんだ、
もう少し見ていたかったなぁ、という気持ちでした。
ソチ五輪フィギュアスケート団体戦金メダリストの一人であり、
2014年3月さいたまスーパーアリーナで開催された世界選手権女子銀メダリストであった、
ロシアのフィギュアスケーター、ユリア・リプニツカヤ選手の現役引退の一報を見た時に。
そう思いました。

3年5ヶ月前のリプニツカヤ選手、浅田選手、コストナー選手の表彰台。いま、この写真を見るとグッと胸に来ますね…。全員とっても良い表情なのがまた。
リプニツカヤ選手と言えばご本人の聡明さや整った顔立ち、
スケートへの真摯さと相まって、
ソチシーズンFS『シンドラーのリスト』で演じた赤いワンピースの女の子、
驚愕的な柔軟性を活かしたI字スピン「キャンドル・スピン」やI字スパイラルの美しさ、
素晴らしいスピナーの一人としても印象深い選手です。

個人的にはリプニツカヤ選手のイナバウワーも綺麗で好きです。柔軟でやや小柄で童顔なところが、S・コーエン選手に通じるものがありましたね。
私の中で、ソチシーズン前年度のGPシリーズに初出場した頃の、笑わないお人形さんの様な黒いパンツ姿の『剣の舞』の少女が、
翌年では、少女らしい可憐な仕草が光るSP『愛はまごころ』と、
過酷な環境に置かれた少女の表情でFS『シンドラーのリスト』を見せてくれたことに感嘆しましたし。
心が震えたんです。

ソチシーズンは本当に素晴らしい活躍でした。
E・スルツカヤ選手以降なかなか女子選手が育たなかった当時、やっとロシアに現れた新星の一人(A・ソトニコワ選手、E・トクタミシェワ選手に次ぐ)、
母国開催五輪メダリストになれる可能性の高い10代女子選手としても、
期待以上の輝きをリンクに刻んでくれました。

2013~2014シーズン SP『愛はまごころ』。
この始まりの、リンクに指で文字を描いてふと空を見上げる振り付け。
本当に可愛らしくて素敵でしたね。ブルーの衣装と少女らしさが溢れる髪型、ナチュラルメイク、いま見ても全てがバランスが良く完璧です。
最後の振り付けもキュートなんですよね。
シニア選手だからと言って不要な背伸びをさせず、15歳の少女の面を活かしたSPとFSの世界観、プログラム、衣装、演技の合致は、近年でも例を見ないほどです。
特に『シンドラーのリスト』の冒頭、振り向く少女の困惑と不安に圧しつぶされそうな表情、何か言いたそうな眼差し、儚さは忘れられないです。
そうした奇跡の、今時の表現で云う神プログラムを、五輪シーズンで五輪メダリストのスケートで見れたことに感謝します
(ソチ五輪は浅田選手然り、ソトニコワ選手、コストナー選手と言った各選手素晴らしいプログラムとスケートで正に眼福でした)。
ありがとう、リプニツカヤ選手。

本来の個人戦ではメディアからの取材つきまといもあり、従来の練習をこなせなく少し残念な結果になってしまいましたが。
それでも彼女の、彼女にしか出来なかったプログラムの素晴らしさは揺るぎません。
ジュニアからシニアの過渡期、体つきも大きく変わって来てしまう成長期で、選手として良い状態で五輪シーズンを迎えられたこと、
出場できたことは険しくとも幸福なことだったと思います。
ロシアに限らず、アジア系を除くと、体質的にもシングル選手では、海外の方が長く選手生活を送るには難しいところが出て来ますし。今は高難度のジャンプ技術と、それに合った体型維持が絶対必要ですから。
またソチ五輪後のルール改定で回転不足判定が厳しくなることで、
フィギュアスケートファンの方達から「新ルールはリプニツカヤ選手、村上佳菜子選手つぶし(ジャンプに特徴的クセがある両選手に厳しい判定結果になる)」とも言われていました。
ジャンプの修正は1年、2年で完了する訳ではないですし、
自分のランクが下がることを覚悟しながら練習し試合に挑むにも、気力体力、時の運という外的環境としての余力が要るものでも有ります。
だからこそ、変わらず応援しているから頑張って行ってほしいと願っていました。

体型変化、ジャンプの回転不足判定、ケガ、年下(ジュニア)の選手がどんどん台頭して来る中で、
それでもスケートへの真摯さを無くさず、
アメリカで練習をしていたりと模索しながらもスケートを続けていてくれた(GPシリーズにノミネートしてくれていた)ところに、
リプニツカヤ選手の気高さやスケートへの誠実さを感じますね。

昨年のGPシリーズロシア杯では、SP3位。
このまま行けば久し振りに表彰台に立つリプニツカヤ選手が見えるとわくわくしていた、
FS中での脚のケガによる…棄権…。
これが結果的に最後の試合になってしまった、というのも寂しかったです。
SPとっても綺麗で復調を感じるスケートでしたから。FSも、笑顔のリプニツカヤ選手を見たかったです。

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2016年 SPのリプニツカヤ選手。
衣装もエレガントで綺麗ですし、成人女性らしい顔つきの中に15歳の頃の面影が残ってますよね。
(ロシアは18歳で成人です)

どうか体調を整えて、これからは健やかに暮らして行ってほしいです。
そしてもし可能なら、いつか日本に滑りに来てほしいなと思いました。
ユーリャ、素晴らしいプログラムを、心に触れる演技を、ありがとう。
貴女の幸福を祈ります。
