深い眠りから覚めたチェギョンは、目を開けた時に広がる風景に戸惑った。
―――ここはどこ?
 
見慣れない壁紙と見慣れない家具。それだけではない。目に映る風景だけではなく、嗅覚までも「何かが違う」と訴えてきた。
自分の香りとは違う、青草のような爽やかな香りとわずかな男らしい汗の匂いを感じた。
 
―――そう言えば昨日、私…。
 
チェギョンの頭は一気に覚醒した。夫となったばかりのシンの大きなベッドに横たえられ、逞しい腕に抱きよせられた瞬間、一日の疲れが重くのしかかり、あっという間に夢の中へ入っていったことを思い出した。
男性と同じベッドで夜を過ごしたことなどない。それだと言うのに、何故だかシンの腕の中は心地よく安心できた。
 
―――安心?そんなことあり得ない。
 
“あの”シン・セント・ジョージのことをそう感じるなんて、自分は相当疲れていたのだ。
チェギョンが視線を動かすと、真っ白なТシャツが目に飛び込んできた。よくよく見ていると、ゆっくりと上下に動いている。そろそろと視線だけ動かし上を向けば、男らしい喉仏と少し伸びかけた髭と刃物でそぎ落としたような鋭利な顎のラインが見えた。

シンドはまだ眠っているようだ。

もう少し彼の寝顔をじっくりと見たい。ふっとそんな想いが起きた。それは彼女にとってとても“意外な事”のはずなのに、その時の彼女はそれに気づかなかった。ただ本能的に夫の寝ている姿を見たくなった。
チェギョンは、そっと体を動かして夫の寝顔を見ようと試みたが、彼の腕が自分の腰に廻っていることに今更ながら気づいた。目だけ動かすと夜の間にパーカーを脱いだのだろう、筋肉で覆われたむき出しの長い腕が、蔓性の植物のように自分の腰に絡みついているではないか。

彼の腕の重みを、初めて感じる。

急に夫の触れられていることを意識して、チェギョンの心臓がドキドキと大きく動き始める。
 
―――シン王子に気づかれてしまう。
 
彼の前で平然とした顔をするのは、少しばかり努力が必要だ。彼の瞳を見ていると、自分の心の中を見透かされてしまう気がして、チェギョンは昨日は一日中気を張ってた。起きたばかりで心の準備はできていない。だからそっとそっと、彼に気づかれないように見ることにしよう。
目を閉じて、大きく―――でも静かに―――ー呼吸をすると、チェギョンは目を開けてその腕をじっくりと観察することにした。
 
――――彫像みたい。
 
夫はとてもハンサムだ。近寄りがたい印象があるけれども、こうして寝顔を見ると、彼がまだ小さな王子だったころの面影があるような気がする。こんな姿を見ることができるのは、自分が彼の“妻”だからだ。妙な事だけれども、絢爛豪華な結婚式よりも、高価な指輪よりも、今この瞬間が一番、二人の結婚を実感してしまった。
 
 


最初こそ眠っていたシンだが、チェギョンが身じろぎする動きで目覚めていた。妻に気づかれないようにうっすらと目を開け、彼女のことを見つめる。
緩く編まれていた髪は彼女が眠ってしまってから、自分がほどいた。どうしてもこの手にあの艶やかな栗色の髪を載せてみたかったからだ。

自分の体に広がる栗色の髪は緩やかにカールして、まとわりついてくる。
あの髪のように、チェギョンが自分に身を寄せてくる日は来るのだろうか?
チェギョンの腰に巻き付くシンの腕に気づいた彼女が、ハッと息をのんだかと思うと、目をギュッとつぶり大きく息を吐いている。その真剣な様子に、シンはうっかり笑い声を上げそうになり、どうにか飲み込んだ。

顔の横に軽く握っていた小さな手が、そっと動き始める。と、シンの腕を羽で触れるように軽く滑っていく。
彼は気持ち良さに声を上げそうになり、どうにか息を整え耐えた。
その動きに気づいたチェギョンが、顔を上げようとしている。シンは慌てて目をつぶった。
どうして、自分がコソ泥のように寝たふりをしなければならないのか、皆目見当がつかないが、多分、理由はこうだ。
何故だか彼女の素の顔を見られるような気がしたから。

自分が知っているこれまでの彼女は、『完璧な公爵令嬢』だ。
美しく可憐な外見と、慎ましやかで控えめな態度。どこに出しても恥ずかしくないマナーと仕草。そして、何を考えている読めない微笑を湛えた表面的な表情。

兄と兄嫁が亡くなりシンが提案した決意を彼女に告げた時、チェギョンの態度は立派だった。
ほんの少し目を見開き―――ーあの時も“瞳だけは”彼女の心を表していたのだろう―――たったひとこと「殿下の仰るままに」と答えた。言いたいことも、思うことも多くあったのだろうが、彼女は自分の置かれた状況を考えベストな判断を下したのだ。


―――自分と同じ人間か。

 
シンは、内心苦笑した。氷の王子だと言われている自分に、チェギョンはまさにピッタリに妻と言うわけだ。どちらも本音を見せないのだから。
 
彼女の小さな手はまだ探索を続けるつもりらしい。シンは動き出したくなる気持ちをぐっとこらえ、寝たふりを続けることにした。
 
 


シンの視線を感じたような気がしたが、それは気のせいだったのだろう。チェギョンが顔を上げてみると、彼の胸は一定のリズムをもって上下していており、魅力的なグリーンの目は閉じられている。
もう一度じっくりと観察して夫がまだ夢の中に居ることを確かめると、チェギョンは彼の腕に再び触れることにした。

 
堅い筋肉に覆われた腕は、黒い毛がうすらと覆っている。指先で触れてみると、ザラザラとも違い、もしゃもしゃと言うほうがぴったりくる
 
「この腕が私の素肌に触れたとしたら、どんな感じがするのかしら?」
「試してみようか?」
突然シンの声がして、チェギョンが驚きの小さな悲鳴を上げた時には、彼女の体はマットレスに押し付けられ、夫の大きな体が上に覆いかぶさっていた。
どうやら、チェギョンは心の声を口に出してしまったらしい。
彼のグリーンの瞳は深い色に変化し、それでいて、どこか面白がっているような表情を浮かべていた。

「で、殿下?」
「シンだ」
夫の断固たる口調に、チェギョンは彼がこの考えをこれからも主張するだろうと理解し、
「シン…こ、これはどういう意味なのかしら?」
憮然として尋ねた。彼女の心臓がひっきりなしに大きな音を立てている状況で、驚くべき冷静な声が出たと、誰もが思うだろう。
シン以外は。まさか彼にパニックになっている心の中を見破られているなんて思わなかった。

自分の妻は、なんと落ち着いて見えることか。そうだ、“見える”だけだ。
彼女は決して冷静ではない。その証拠に、彼が近いうちに思う存分味わうつもりのピンク色の唇はわなわなと震え、細い首の脈が大きく波打っている。
彼はチェギョンの頭の横の置いた片方の手を動かし、親指でその唇をそっと撫でた。

薄茶色の瞳が戸惑ったように瞬きをしている。ツンと澄ました妃らしい顔以外を見るたびに、シンは楽しむ自分に気づいていた。

「どういう意味かって?そうだな。きっと誰が見ても、新婚の夫が妻に愛を注ごうとしているように見えるだろうな」
シンの言葉に、チェギョンの警戒心が強まった。顔をこわばらせ、体に力が入っている。
「そんなに怖がることはない。僕たちは、晴れて夫婦だ」
彼女の肩をシンが撫でると、彼女がぴくりと体を動かした。それでも彼女は視線を外さず、彼を見つめ返してくる。控えめな態度の下に隠されている強い意志。これまで自分がイメージしていた彼女とは別人の彼女がいることは確実だろう。


「さ、起きよう。今日も一日いろいろとあるから」
突然明るい口調でシンが言うと、彼はサッサとベッドを降りて大股で部屋を横切り、バスルームへ消えて行った。
唖然とした顔のチェギョンは、夫の後姿がバスルームのドアに消えてから、随分長く動かなかった。やがて、ハッと気が付いたようにベッドを滑り降りると小走りに自分の寝室へつながるドアを開け中に入ると、バタンと勢いよく閉めた。


閉めたドアにもたれて、チェギョンは片手を胸に当て目を閉じる。
「……どういうつもり…?」
自分をからかってるのだろうか。そうかもしれない。あのシンなのだ。初心な自分はさぞかし、からかいがいがあるだろう。彼が傍にいるだけで通常の思考回路が吹っ飛んでしまう。こんなことでシンの妻として平然としていられるのだろうか。
 
鏡を見ると上気した顔をした自分がいる。
チェギョンは鏡に近づき自分の顔を見つめた。彼が望んでいるのはチェギョンという一人の人間ではない。ただ、『シン王太子にピッタリの妃』が欲しいだけだ。
「いいわ。完璧な妃になって見せるから」
最初からそのつもりでここへ来た。チェギョンは目を閉じ心を落ち着かせた。それから熱いお風呂に入ることにした。何もかも体中から流してしまいたい。彼の匂いも、自分の揺れ動く危い心も。





バスルームのドアを閉めた途端、シンは肩で大きく息をした。足元を見れば、スウェットの脚の付け根の当たりが、盛り上がっている。
「計算違いだったな…」
前髪をかき上げ、自嘲気味に呟く。

チェギョン・クライボーンはどこまでも『理想的な王太子妃』だと考え、だからこそ、彼女を妻に選んだのだ。妃として必要なものを彼女は申し分ないほど身に着けている。
―――名門貴族の娘
―――美しい容姿
―――完璧なマナー
―――慎ましやかで貞淑な態度

だが、自分は彼女のことをよく分かっていなかったのかもしれない。
人形のような佇まいの下に、強い精神力と、そしてシンが露とも思ってもみなかった情熱的な炎を隠している。
そうでなければ、百戦錬磨だと世間で噂される―――それは誇張されてる部分も多いにあるが――――シン・セント・ジョージが、無垢な娘にこれほどまでに惹かれるなど、あり得ない。

彼女は確かに服を着ていたというのに、自分の体はまるで妻と体を重ねたかのように強く反応している。

「冷静になるんだ、シン。チェギョンはヒョリンの妹だ」
大きな鏡に手をつくと、シンは己に向かって言い聞かせる。

だが、チェギョンは自分の正式な妻だ。
彼女は王太子のベッドを堂々と温めることが出来る唯一の女性なのだ。
いずれ、彼女が自分と同じように、『王太子とその妃』の義務と責任を感じることが出来る様になったら、二人は本当の意味でベッドを共にすることが出来るだろう。
「それまでの辛抱だ」
一向におさまらない昂ぶりに向かって視線を向けると、なだめるようにシンは呟いた。
 
 
 
ニコニコニコニコニコニコニコニコ
 
いまさらながら、あけましておめでとうございます。
今年も、ゆるいこのブログをよろしくお願いします。
 
 
年末から、体調不良の私。
あれから、整形外科へ受診して、これまでのいきさつと検査結果を告げ、レントゲンを撮ると・・・・
 
なんと、「内臓や骨、関節、筋肉はどこも悪くないですね」と言われる。
 
えーーーーポーンポーン、だったらこの痛みは、なんなの?人生で、一番痛いというのに。陣痛よりも泣
 
先生が
「どこも悪くなくても、体が痛くなる人がいるんですよ。病気ではなくて、あくまでも症状でしてね。そういう場合は、『肋間神経痛』と言われるんだよね」
 
このブログのコメントでもあったな、それ、って思いながら説明を聞く
 
「ロキソニンやボルタレンで痛みが消えないのは、まあ、体のどこにも炎症が起きてないのでね、当たり前と言えば当たり前なんですけどね。それらの鎮痛剤とは違って、神経に直接作用するほかの薬を処方します」
 
ってことで、まあ、モルヒネとかの系統の薬を処方される。
神経過敏なところは、ぼやけさせるっていうかそういう作用をする薬。
 
最初は少量から試すので、全然効かず。2週間ぐらい飲んだ頃に、やっと効きだす。
仕事始まるころには、だいぶ良くなっていたんだけど。
仕事始まるとストレスだよねニヤニヤ しょうがない。
 
今も痛みと付き合いつつの日々です。
 
先生に「痛いのおさまらなかったら、ロキソニンを飲んでもいいですよ。湿布も貼っていいです。気持ちの問題なのか、ロキソニンで痛みが良くなった気がするときがあるので」って言われた驚き
でも、半年前に胃カメラ飲んだら、ロキソニンを連日飲んでいたので、胃の中がただれまくっていたのでガーン
かわりに、ロキソニンテープを貼っております。ちょっと湿布くさい中年女子真顔
香水の良い香りの代わりに、湿布の匂いの中年女子真顔
ロマンチックなところが全くない泣くうさぎ
 
そんな自分を慰めるために、コーチで10万ぐらいのバッグを買う。
 
ヴィトンが好きなのですが、最近、値上がりがひどいわー。
ちょっと高くなりすぎて、簡単には手が出なくなってきた。ホント、中年女子世代は、子どもの教育費がかかるのよ~。
 
このコーチのバッグ、娘が使ってもいいかなって思って。
神経痛で始まった今年。無事に1年過ごしたい・・・・。