引続き木村宗三の3月8日附手紙です。知人宛の私信?の文末です。

 

      〔本文1〕

          〇仏蘭西の人数も少し、人情ハ京都之様に有之候由、兎角利

          を得、人より物品を貰ひたかり申候、且盗人多し、併し乞食

          ハ少し、唯々盲・蹇・不虞計り乞食致し居候、日本の如く壮

          年の者を乞食ニ致させ候事ハ勿体なき事ニ而今日の用向ニ使

          用致度事なり、

 

      〔概略1〕

      フランスは人口が少なく、人情は京都の人のようです。ややもすれば

      利を得たがり、他人から物を貰おうとします。しかも盗人が多い。し

      かし乞食は少ない。ただ盲・蹇・不虞の人ばかりが乞食をしています。

      日本のように壮年者を乞食にさせているのはもったいないことです。

      今どきの用事に使いたい。

 

      〔本文2〕

          食事も二食ニ而酒狂人と申もの更ニ無之候、且酒も沢山ニ給

          へ不申、実に武士の前後忘脚為す程給酔候は見苦敷事なり、

          田地に人の糞抔は更ニ用ひ不申、不残海江流し候由、気候は

          日本より寒き方ニ而、此節迚も綿入位ニ而冷ヤ付申候、雨少

          々降り、日本を放れて雨に二度出逢申候、尤半時位之雨にて

          終に降続と申事無之、併魚は生鮭・残魚(キス)の類多し、併

          醤油の無きにハ困り入申候、何れも醤油のしたし之味を附候、

 

      〔概略2〕

      食事は一日2食です。「酒狂人」と言われるような人はいません。し

      かも、大酒飲みもいません。武士が前後不覚になるほど酔うのは、実

      に見苦しい事です。農地に人糞などは使用しません。残らず海へ流し

      ます。気候は日本よりも寒く、この時期綿入れくらいでは冷えます。

      雨は少し降ります、日本を出発してから雨に降られたのは2度です。

      もっとも半時くらいの雨で、長く降り続くことはありません。しかし

      魚は生鮭・鱈・キスの膾などが多い。しかし醤油がないのには困って

      います。いずれも醤油のしたしの味をつけるものですから。

 

      〔本文3〕

          夏も袷位ニ而宜敷よし、水抔ハ至而、大城と申も日本の御城

          の如く広くハ無之丸而寺院の如く、別ニ侍と申も見得不申候、 

          唯々歩兵・騎兵のミ侍の如く相見得申候、何も帰国之上夫々

          可申上候、実ニ西洋と申ものハ于届候事ニ而、樹木なき山ニ

          木を植へ草なき野へ草を植へ荒山荒野と申ハ更に無之、是ゟ

          又々写真も度々取り候上追々差上可申候、下略

              卯三月八日認          木村宗三

              松尾要助様

 

      〔概略3〕

      夏は袷くらいで十分です、水はおいしいです。大城といっても日本の

      御城のように広くはなく、まるで寺院の様です。特に侍というものは

      見当たりませんが、歩兵や騎兵は侍のようにも見えます。いずれも帰

      国したらお話しします。実に西洋は行き届いたことに、樹木が生えな

      い山に木を植え、草が生えない野に草を植えるので、荒山や荒野とい

      うのはありません。これからも写真を取りますので、追々と写真を送

      ります。下略

          卯(慶応3)年3月8日          木村宗三

          松尾要助様

 

フランスの人情・風俗・気候など、多岐に渡り書き連ねています。

手紙では伝えきれないため、早く帰国して詳しく伝えたいと繰り返し書いています。

手紙の宛名は松尾要助氏ですが、手紙の内容からその周辺の人々にも伝えてほしいと

の思いが感じられます。