さて、今回は木村宗三からの手紙その3です。パリの物価について述べています。

 

      〔本文1〕 

           物価之貴きは蜜柑少計りにて一トルラル位、茶一杯合も三朱位、烟草

           一斤一トルラル位、髪一度刺三朱位、酒弐合一トルラル半位恐るへし、

           一トルラルは丸而日本の弐朱位の相場ニ相見得申候、建家は小なる

           方ニ而四階大は七階に至り、下女下男の様子主人と相分り不申、

           一ヶ年給金三百トルヨリ四百トル迄、衣物は別ニ仕着世なり

 

      〔概略1〕

      物価は、蜜柑が少しでも1ドル位、茶1杯で3朱位、煙草1斤で1ドル位、調髪1回で

      3朱位、酒2合で1ドル半位、恐ろしいほど、高い。1ドルは日本の2朱位の相場と

      思われます。建物は低くて4階建、高ければ7階建です。使用人の様子はその主人

      と区別しがたい。1年間の給料は300ドルから400ドルまでで、衣類は別途支給され

      ます。

 

      〔本文2〕 

           〇先日マルセイル学校一覧致し候、寄宿生弐千人婦人別ニ千人と申事、

           其外日々通ひ稽古人は三千人も有之由盛なる事なり、パリスは尚盛なる

           事と被存候、追々一覧之上可申上候

 

      〔概略2〕

      先日、マルセイユで学校を見学しました。寄宿生が2000人、女性は別に1000人で

      す。その外に通学生が3000人もおり、栄えています。パリの学校はそれ以上に

      栄えていると思いますが、追って見学したうえでお伝えします。

 

      〔本文3〕 

           〇仏蘭西は竹の子更ニ無之独活も見当り不申候、此節は御地ハ定而

           竹の子・木の萌田楽・笋飯盛なる事と御浦山敷被存候、尤桜の花は折々

           見請申候、野菜物も日本の如く無之、土地は日本よりおとり申候、日本

           か西洋の如く開けさへすれハ西洋よりも遥ニまさるへし、何れ各国巡歴

           之上種々の様可申上候

 

      〔概略3〕

      フランスには竹の子が無く、ウドも見当たりません。この季節はあなたの土地では

      竹の子・木の萌田楽・笋飯がたくさん食べられることとうらやましく思われます。

      もっとも桜の花は時々見かけます。野菜物も日本とは違います。地質は日本よりも

      劣ります。日本が西洋のように文明が開けば、西洋よりもはるかに優れた国になる

      はずです。各国順歴の後に色々とお伝えしましょう。

 

ミカン・茶・タバコ・酒・使用人の給料の高い事、学校制度の普及への驚き、日本食への渇望、

そして日本の可能性への希望、等など、日本は西洋諸国と比較しても劣ることはないとの

強い自信。木村宗三の思いが書き綴られています。