Soramimi♪ -16ページ目

青春

その、古いマンションには、エレベーターがなかった。


つやつやとした、タイル張りの外壁がレトロで気に入っていた。


くすんだ緑の玄関は、怪しさがあった。


小さなキッチンで、夕食の支度をし、彼の帰りを待っていた。










幸せと不安の入り混じった部屋だった。




時々、傘のない電球の紐を引っ張り、部屋を暗くして、冷たく硬い床に寝そべって、カーテンのない窓から入る光を見ながら、考え事した。



先の見えない日々が怖くて、安定と安心を求めていた。






そんな不安定な日々が今では、懐かしく、愛おしい。


貴重な、青春時代。



映画で見るような、憧れの生活がそこにはあった。



セミダブルの狭いマットレスに、身を寄せ合って眠った。


快適とは程遠い、その部屋は、私たちの青春そのものだった。





快適で安心できる生活を手に入れたのに、物足りなさを感じているのは、なぜだろう。




都会の街に埋もれながら、ふとあの日々を懐かしく思った。