青春
その、古いマンションには、エレベーターがなかった。
つやつやとした、タイル張りの外壁がレトロで気に入っていた。
くすんだ緑の玄関は、怪しさがあった。
小さなキッチンで、夕食の支度をし、彼の帰りを待っていた。
幸せと不安の入り混じった部屋だった。
時々、傘のない電球の紐を引っ張り、部屋を暗くして、冷たく硬い床に寝そべって、カーテンのない窓から入る光を見ながら、考え事した。
先の見えない日々が怖くて、安定と安心を求めていた。
そんな不安定な日々が今では、懐かしく、愛おしい。
貴重な、青春時代。
映画で見るような、憧れの生活がそこにはあった。
セミダブルの狭いマットレスに、身を寄せ合って眠った。
快適とは程遠い、その部屋は、私たちの青春そのものだった。
快適で安心できる生活を手に入れたのに、物足りなさを感じているのは、なぜだろう。
都会の街に埋もれながら、ふとあの日々を懐かしく思った。