小学校に上がる前から、米を炊いて、チャーハンを作って食べていた。
卵は滅多になかったし、あれば上の兄弟に取られた。
ご飯に水をかけて食べるのが当たり前で
親も家にいなくて、気づけば近所の斉藤おばさんの子みたいになっていた。
納豆ご飯に卵を入れるのが好きだって言って
家では食べられない卵納豆ご飯をご馳走になっていた。
ほんとはハンバーグも唐揚げもカレーも食べたかったけれど
わがままを言えばもう呼んでもらえなくなる気がして、言えなかった。
いつも周りを伺ってた。
挑戦するよりも「勝てること」だけを選んで一生懸命やってきた。
歌だってそうだったのかもしれない。
だけど、その勝てると思えたことにすら挫折する日が来た。
すべてを投げ出したくなって
世界からは色が消えて、俺自身が透明になったように思えた。
「無」というものの本質を知った時
それでもなぜか足は前へ動いていて
生きることは「進むこと」しか残されていなかった。
飛行機に乗って、街を眺めながら決めた。
「挨拶をしてから死のう」って。
友達、親、兄弟、先輩、お世話になった人たちに会って回った。
でも斉藤おばさんのところだけは行けなかった。
会ってしまったら、本当にもう立ち止まってしまうから。
心の中でずっと感謝していればいい。
それで十分だと、無理やり言い聞かせた。
ズタボロの雑巾みたいな俺にも
守るべき家族ができたから。
過去を忘れずに、それでも進むために
透明だった俺のことは、もう置き去りにするよ。
人生でいちばん感謝しているおばさんに
会わないという言い訳が
俺をきっと生かしてくれるから。