『やぁ、御無事でしたか!』

 近衛兵兵長のローランドが爽やかな笑顔で上がってきた。俺は慌ててアリシアの肩をつかんで押し放す。

『ローランド! 何故あなたが今ここに? 今、街はどうなっているんですか!?』彼女の声音は、ここに近衛兵兵長がいることに対しての叱責に聞こえた。そういえば、街が沈静化していることをアリシアに伝えてなかった。

『城の内外を見て回ったのですが、盗賊どもの暴動は沈静化したようです。それにしても不思議な道具を持つ彼らは、トウシロウ殿の仲間ですか?』

『ええ、万が一のために応援を呼んでいました』

『……そうですか。それにしても、やはり私が思ったとおり、トウシロウ殿の剣技は突出しておりますな』

『いいえ、たまたま相性が良かっただけです』

 ローランドも俺の剣技を見ていたようだ。

 俺たちの落ち着いたやりとりに、アリシアは安堵の表情を見せた。

『では、街に戻りましょう!』アリシアは踵を返し、俺はアリシアに続いた。ローランドが俺の後ろに回り、今来た道を戻る。

 歩き出した瞬間、俺はこの森閑とした中、金属同士が擦れる音が微かに聞こえた。その音には確実に微かな殺意が込められていた。木漏れ日の上に、ローランドが抜刀して上段の構えで俺を狙っているのが、影で視認できた。ほぼ無意識のうちに抜刀した俺は、逆光の中、振り返りながら背後からの一撃を刀で受けた。甲高い音と衝撃が刀を通して森と身体に響いた。

『えっ、なにっ!?』アリシアは狼狽して振り返る。

『さすが盗賊の首魁を倒しただけある。寸止めするつもりが、背後からの一撃をこうも簡単に受け止めるとは。驚嘆に値する』

 そこには笑みを隠せないローランドが刀越しに見えた。『どういうことだ!』ローランドの剣を押し返した俺は、間合いをとって刀を中段にかまえた。

『ローランド!! 何しているの!!』アリシアは、しばらくして事態に気付いたようだ。

『嬢様、御無礼をお許し下さい』ローランドは腰に佩いたもう一本の剣を抜く。ローランドの真意は分からない。俺が本当にアリシアの婿として相応しいか試しているのだろうか。

『二刀流か……』真剣の二刀流とは戦ったことがない。対処出来るだろうか。一抹の不安が過ぎる。

 二剣を構えたまま、ローランドは縷々述べる。

『戦乱も終わり、今の時代は私には退屈でしょうがないのです。彼はビリンガムの貴族候補で、腕も確かです。ただ正式な貴族となる前に、決闘を申し込みたい。その後の私の処遇はアリシア様や賢人会にお任せいたしますので、この闘いだけは目を瞑っていただきたい』

『却下です! 叙勲を済ませてないとはいえ、貴族候補は彼だけなんです!』

『分かりました……、と言いたいところではありますが』