エッフェル塔

ひとつにスニーカーを穿いて


旅行へ出かけるようになったのはここ数年のことだ。

学生時代はサッカー部に所属して毎日サッカーに明け暮れていた。休日という休日は練習や試合だったので旅行をした記憶はない。修学旅行では京都、中国、サッカー部の遠征では韓国へ行ったことがあるが、旅行と呼べるようなものではなかった。

初めて旅行をしたというのは大学4年生の時に友人とアメリカと中国へ行った時になるだろう。インドからロンドンへ乗り合いバスで移動する旅を描いた沢木耕太郎氏の「深夜特急」という本に影響を受けバックパックを背負って旅に出かけた。航空券だけを旅行代理店で予約をしてシカゴ、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンDC、ロサンゼルス、サンフランシスコを約1ヶ月間かけてまわった。宿は各都市のユースホテスのドミトリー(6人くらいの相部屋)に予約なしの飛び込みで泊まった。価格は当時日本円で1500円から2000円だった気がする。

中国旅行では香港から北京を電車で2週間かけて往復した。途中、鄭州という都市で電車を乗り換え兵馬俑で有名な西安にも行った。どちらの旅行も旅程を決めずにその場で気の向くままに2人で決めた。そのため北京では万里の長城へ行けなかったりと今思えばもったいないことをしたが気もするが、気ままな旅でよかった。そのときの旅がいまの私の旅の原点となっている。

かばんに最小限の着替えと数冊の本をつめて、スニーカーを履いてでかける。海外旅行でも国内旅行でも、宿泊数が何泊でもかばんはひとつと決めて、旅先ではできるだけ歩くようにしている。

いつもと違う景色を見ながら、いつもと違う空気の中を歩くと不思議なことにいつも見ていた景色や日頃考えていたことが違って見えてくる。


私が感じたこの感覚はいつの時代も変わらないようです。

大西洋単独横断飛行を成し遂げたチャールズ・リンドバーグの妻のアン・モンロー・リンドバーグ。彼女は2001年に94歳で亡くなるまで、13冊の回想録、小説、エッセイなどを残している。彼女の本の中にコネチカットでの生活を離れ、離島で休暇を過ごしながら書いた「GIFT FROM THE SEA」という本があり、その中にこんな文章がある。



Island living has been a lens through which to examine my own life in the North. I must keep my lens when I go back. Little by little one’s holiday vision tends to fade. I must remember to see with island eyes. The shells will remind me.

(出典:海からの贈り物 講談社英語文庫)


(島で休暇を過ごしたことによって、日常の生活(コネチカットでの生活)を別の視点から見直すことができた。コネチカットに戻っても休暇で得た視点(ものの見方)を覚えていよう。時間が経つにつれて島での視点はだんだんと忘れてしまうもの。日常生活に戻っても島での視点からものを見ることを忘れてはならない。持ち帰ってきた貝殻を見れば島での視点を思い出すだろう。)


旅先での視点(ものの見方)は日常の生活に戻るとすぐに忘れてしまう。だから私はその視点を思い出すためにときどき旅行にでかけるようにしている。

貯金がほとんどない私にとって、旅行にはお金がかかるので躊躇する気持ちがない訳ではない。躊躇する自分に気がついた時はいつもこの言葉を思い出す。


「お金・時間・健康、この3つが人生で揃うことはない。」


 本で読んだのか誰かから聞いた言葉なのかは忘れたが私のこころになかに長く残っている言葉のひとつだ。

幸い今の私には健康とたっぷりではないがすこしは時間がある。いまのうちに行きたいと思ったところへ迷わず行こうと思う。