


このお寺をよく知るようになったのは、昭和45年ごろだったか、ある本のおかげだ
タイトルは「心」
書いたのは高田好胤管長である
さまざまな人との出会いを通じて、仏の心やお寺のことなどを知りえた
さらに「道」「愛に始まる」など続編も買って、むさぼるように読んだ
ウイットに富んだ文章もおもしろかった
本はベストセラーとなり、呼びかけていた般若心経の写経もぐんぐん進んだ
その写経を通じて集められた浄財で、今日の伽藍が次々と建てられた
相次ぐ兵火で、白鳳時代から残っていたのは「東塔」だけだったのが、いまやかつての隆盛を再現するにいたった
一人の人間の発願から始まり、これだけの大伽藍を復元したことには、ただただ驚くほかない
さて、その本にも出ていたが、薬師寺はお坊さんの「説法」が有名だ
高田好胤師から受け継がれた、そのユニークな説法は修学旅行生らにとって忘れられない思い出になるだろう
訪れた日も、比較的若いお坊さんが話していた
「皆さん、奈良で一番立派なお寺はどこですか」
「東大寺!」
「えっ、皆さんは今どこにいますか?こうして話しているお坊さんはどこのお寺の人ですか?ちゃんと空気を読まなくてはいけませんよ。はい、奈良で一番立派なお寺は?」
「東大寺!」
こんな具合である
もちろん、最近の中学生はわかっていて、そう答えている
そして、いつしか話は「手を合わせること」「感謝すること」などに法話に移っていく
そのあと、金堂に安置された薬師三尊像の前にたった中学生たちは、きちんと手を合わせていた
現代っ子であろうとなかろうと、子供たちは本来素直なのだ
家族や友達の健康を祈る、そんな他人への思いやりは持っているのである