京王線明大前駅で、電車の乗客の尻押しをしたことがある
35年以上の前の学生時代、冬場の着ぶくれラッシュに対応したアルバイトだ

朝の7時半から9時まで90分間に60本ほどの電車が来る
乗り切れない乗客を押して、電車に詰め込む

服装は学生服だが、制帽と腕章が貸与された
注意点がいくつかあった
下手に押すと乗客からクレームがつくから気をつけることと、無理に押し込むのではなく、定時運行を確保することだった

だから、乗りきれないと判断したら、「すぐに次の電車が来ますから」と言って、あきらめてもらう
実際、その電車の後ろには次の電車が見えている
だが、乗客はなかなか言うことをきかない

白い手袋は自分で買ったが、毎日90分の勤務で黒く汚れた
乗客の尻押しで汚れるのではない
乗客で膨れ上がって閉まらないドアを手で閉めるからである

電車が発車し、顔を出している車掌が通過するときに敬礼する
これはすぐに慣れた

電車がホームを離れると、線路にはいろいろ落ちている
中にはハイヒールもある
それを、先に鉤が付いた棒で駅員が拾う
すぐに次の電車の車掌に渡す
新宿駅で靴を届けるという仕組みだ

そのバイトで気になったことが一つある
通勤ラッシュ時にもかかわらず、ホームを行ったり来たりして、なかなか電車の乗らない人がいる
こちらはホームの線路寄りにいる
気持ちが悪い
まさか突き飛ばされはしないだろうなと思う
もちろん、そうされなかったから今日まで生きている

岡山でホームにいた県職員を突き飛ばして死なせた少年がいる
「誰でもよかった」という
その言葉は前日に茨城の事件で聞いたばかりだ
またか、である

「人を見たら泥棒と思え」が「人を見たら殺人者と思え」になってきている
社会のレベル格段に下がってきた
われわれは、あさましい日本をつくってきたのだろう
こんな現状に立ち尽くしてしまう

この世には、取り返しのつくことと、つかないことがある
わが子に、この問題を語って考えてもらうことしか思いつかない