かつて、一緒に働いたことのある人からいきなり電話をもらった
いや、電話というのは、いつもいきなりなのだが、本来は電話が来るような関係ではなかった

1月に定年を迎えたという
そして、在勤中から一つの思いがあって、定年を待ち焦がれていたとも
お遍路をしたいというのである

話の素振りから「歩き遍路」を目指していることは分かった
それで、人づてに、私が歩き遍路経験者であることを知り、話を聞いてみようと思ったそうだ

翌日、喫茶店で会った
何から話していいのか分からないので、最初に聞いた
ラリーのように1200キロを早く歩いて自分の体力を試してみたいのか、それとも宗教心を持って自分を見詰めてみようというのか
「いや、うちは浄土真宗で宗派は違うが、宗教とか神秘的なものに関心がある。だから、味わって回りたいし、自分を振りかえってみたい」

ならば、と、かいつまんで概要をしゃべった
そして、もっとも必要なのは地図だろうと、すでにボロボロになっている「四国遍路ひとり歩き同行二人」(へんろみち保存協力会編)を見せた

ところがなんと、彼は紙袋からその最新版を出してきた
下見というのか、様子伺いに一度四国へ行ってきたらしい
準備万端なのである

思えば、当方はガイドブックもなしに、一番札所・霊山寺に来たのだった
知識としては、昔読んだ「定年からは同行二人」(小林淳宏著)だけである

そして、霊山寺で地図からすべての遍路用品をそろえて歩き始めた
それに比べれば、知人の用意周到なこと
歩きのためのトレーニングもしているそうだ

拙著「お遍路さんと呼ばれて」も買ってくれた
お釣りがないと言ったら、釣りはいいからとも
「田植えが済んだら、行くつもり」と元気いっぱいだ
暑くなる時期だけに水分補給の大切さや、最初から飛ばすななどと知ったかぶりを披瀝して別れた

本当に気持ちのいい時間だったのは間違いない
遍路を志すという、純粋で熱いハートが気持ちいいのである
四国で会ったお遍路さんたちと似たような目を、そこに見たと言ってもいい