地獄の閻魔様のことは誰でも知っているが、現世の罪を調べる裁判で最初から閻魔王は出てこない。

 二七日(ふたなのか)の初江王(しょこうおう)、三七日(みなのか)の宋帝王(そうていおう)、四七日(よなのか)の伍官王(ごかんおう)ときて、五七日(いつなのか)の閻魔王と続く。順次、不殺生戒などを調べられ、五番目に閻魔王が登場するわけだ。ここでは浄玻璃(じょうはり)という水晶で出来た鏡で、生前の悪業をすべて映し出される。尋問されて、うそをつくと獄卒(ごくそつ)と呼ばれる地獄の鬼に舌を抜かれることになっている。閻魔様が抜くのではなく手下がやるのである。

 さらに六七日(むなのか)の変成王(へんじょうおう)、七七日(なぬなぬか)の泰山王(たいせんおう)まである。つまり、裁判終了まで四九日かかるわけだ。娑婆では、この四九日の法要で忌明けとなる。しかし、死者のほうは、これから旅立つことになる。すべての裁判が終わると、六つの世界のどれかに通じる道を行く。六つの世界とは地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人道、天道だ。

 ところが、どの道がどこに通じているかは分からない。しかし、自分で選んだ道がちゃんと生前の業に基づいた世界へ続いているのだ。最も恐ろしい地獄は八段階に層状(八大地獄)になっていて、下層ほど厳しい責め苦が待っている。

 軽い上の方からいくと、まずは等活(とうかつ)地獄だ。ここは生前に殺生した者が送り込まれる。殺生とは殺人だけではない。生き物を殺したことを指す。焼けた鉄板の上に寝かされ、牛や馬の頭を持ち体が人間という牛頭(ごず)、馬頭(めず)という鬼によって五体を切り刻まれる責め苦が待っている。

 次が黒縄(こくじょう)地獄である。殺生と盗みをした者が行く。焼けた鉄の墨縄で罪人の体に十文字に升目を入れて、その線に沿ってサイコロ状に切断する。その下が衆合(しゅうごう)地獄。殺生と盗みと邪淫の罪で落ちてきた者の地獄だ。木の上に美男美女がいて罪人が登ろうとするが、木の葉一枚一枚が鋭利なかみそりのようになっていて、ずたずたに切り刻まれる。

 あとは叫喚(きょうかん)地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻(あび)地獄と続く。細かい説明は省略するが、そこでは、肉体を切り刻まれたり、溶けた銅を流し込まれたり、鉄の串で刺し通された揚げ句に地獄の業火であぶられるというすさまじい刑罰が行われる。下の層に行くほど、苦しみは十倍、刑期は八倍ずつ増えていくという。

 なにより地獄の耐え難いところは、それで死なないことだ。死んでいるのだからまた死ぬことはない。冷たい風が吹くと生き返ってしまう。だから、死ぬ苦しみを何度となく味わう。恐怖と苦痛の極限状態が延々と続くわけだ。