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 時間が分かる?ヘビ

「十九番札所・立江寺」は、鶴林寺から一五キロ余り東にある。県道一六号線、二二号線、二八号線を経由して行けば、JR牟岐線の駅のそばだ。町の中のお寺なのだが、もう参拝客もいないから門前に堂々とフュージョンを停め、境内に入って本堂と大師堂でお経をあげてきた。どんなに急いでいても、これだけは省略はできない。それが目的なのだから。

 このお寺では前年、宿坊に泊めてもらった。そのときは歩き遍路で、息も絶え絶えに到着した。途中で追い抜いて行った若い女性も宿坊に泊まっていて、二人でご飯を食べていたら、車で来たおじさんたちのグループが現れた。とてもにぎやかでビールを注文し、こちらに向かって「すみませんね」と声を掛けた。

 遍路には十善戒というのがある。生き物を殺すなとか盗むな、悪口を言うな、などという心構えである。その中に酒を飲むなというのはないが、修行という意味で禁酒を誓っている人が多いのは事実だ。ボクはビールぐらい飲むが、このときは宿坊なので遠慮していただけである。しかし、こちらが飲んでいないから、おじさんたちは気が引けたのだろう。ボクは、「どうぞ、どうぞ」と答えたのを覚えている。
 食事はおいしく、お風呂はジェットバス。すっかり気に入った宿坊だったが、今回は遅い到着なので、ご飯の用意もできないだろうと、残念ながらパスした。

 さらに五キロほど離れた「十八番札所・恩山寺(おんざんじ)」に向かう。ここが本日の最終目的地だ。到着時はすでに五時を回っていた。納経は朝の七時から午後五時までだから間に合わないが、今回はお参りだけだから、門が開いていれば何時でも出来る。誰もいない境内で、静かにお経をあげ終わり、さあ、石段を下りようとした途端、全身が凍りついた。声も出なかった。

 細いが実に長いヘビ。ついに見てしまった。
 体をくねらせながら素早い動きで逃げていく。アオダイショウだろうか。日中なら、こんな本堂の石段に現れることもないのだろう。遍路が来なくなる時間がちゃんと分かっている。ヘビは怖くて大嫌いだが、多くのヘビと遭遇した歩きのときと違って初めての出会いであり、しばらくたってから、「時間外にお参りに来て、驚かせて悪かったなあ」と思ったのである。

 恩山寺は標高七八メートルあり、宿を予約しようとしたが圏外になっていた。下りてきてから小屋のあるバス停に停めて、徳島市内のビジネスホテルを予約する。距離から考えて「あと一時間ぐらいで着きますから」と言った。だが、国道五五号線は帰宅ラッシュだった。片側三車線の広い道路は車で埋まり、なかなか動かない。それでもすり抜けはしなかった。

 今回のツーリングに当たっては、安全運転を心がけるため路肩は走らないことを決めていた。大人のスクーターであり、車と同じように流れに乗ることにしていたのだ。タンデムした京都ナンバーのフュージョンが追い抜いていく。向こうもこちらを見ている。同車種だと気になるのはお互い様だ。ただし、新型のバーハンドルである。ボクのフュージョンのような古いのはたまにしか見かけない。

 本日の走行距離二二五キロ。お寺の数が11だから、すこぶる走った計算になる。ご飯を食べに行くとき、洗濯物をホテルの駐車場にある洗濯機に入れてきた。レストランでは、隣のテーブルに若い女性が二人。たわいのない話を延々と続けているが、徳島弁がなんとも心地よく響いていた。(つづく)