
ようやく県道に出て快適な道を走っていたら、うっかりとまた行き過ぎた。Uターンして戻る途中、先ほど郵便局を見かけたのを思い出して、そこで貯金を下ろすことにした。手元が心細くなっていたのである。かなりの過疎地でも郵便局はちゃんとある。これに対して銀行は大きな町でないと支店がない。前年、初めての遍路に出るときに、歩きでは行動範囲が限られているからと郵便局の口座をつくってきていたのだ。
午後三時五五分。窓口が閉まるぎりぎりの時間だった。キャッシュコーナーで現金を引き出したついでに局舎の奥に入り、
「すみません、鶴林寺さんへ行くには、どの道でしょうか」と尋ねた。若い女性局員が、
「えっ、鶴林寺?」と口ごもって、不安そうな顔した。
地元なのに知らないのかなあと思ったが、自分の姿を考えてみるとヘルメットは脱いだが白装束で月光仮面のような格好のまま。さらに窓口閉鎖時間の直前だ。つまり、郵便局強盗と間違われそうな感じではあった。
一瞬、間をおいてから、後ろのほうにいた男性局員が前に出て来て、
「この先の信号を右のほうに行くと十八女(さかり)大橋という橋がありますから、それを渡って左のほうに行けば……」と丁寧に教えてもらった。
そこまで聞いて、道は分かった。去年来たときに、その独特の名前から記憶にあったのである。
「あー、十八女大橋まで行ければ分かります。ありがとうございました」と丁寧に頭を下げた。
それにしても、すこぶる親切である。こうしたところが民営化されたらどうなるのだろう、と若干の不安を覚えるほどであった。
太龍寺と同じような山だが、こちらの道は広くてきちんと整備されている。右に左に車体を寝かせて、楽々と上ることが出来た。境内は広く、本堂の隣には三重塔がある。大師堂も大きく立派なお寺だ。今はこうして簡単に上がってきたが、実は阿波の難所の一つである。
「一に焼山(しょうさん)、二にお鶴(つる)、三に太龍(たいりゅう)、遍路泣く」と言うそうだ。焼山寺については後述する。
時間がずいぶんと遅くなったが、まだ本日の宿も決めていない。そして、さらにあと二つのお寺を打ちたいと思うようになっていた。(つづく)