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 5キロ制限

 昼食はまだ食べていないが、きょうは昼抜きで走ることを決めた。これから標高五〇〇メートルの山にある二つのお寺を目指す。それぞれ別の山だから、上って下りてまた上ることになる。最初は「二十一番札所・太龍寺(たいりゅうじ)」だ。

 ところが、道がだんだん細くなる。民家はない。山へ向かっているのだから当然だが、何かおかしい。地図を見てもランドマークが何もないから分からない。こういうときは、元に戻るのが最良の方法だ。たまたまガソリンも少なくなっていたので、戻ってきたところにあったスタンドで給油をするとともに、店員に道を聞いた。やはり、間違っている。

 国道一九五号線から県道二八号線に入って、見覚えのある民宿のところで左折、山道に入る。ここは歩きと同じ道で、もちろん一車線。それも急坂である。車道としては、これまでの行程で最も勾配がきつい感じがする。がけの側にガードレールなどはないから、慎重に運転しないとならない。路面も荒れているところがあり、当然スピードダウンだ。
 途中から上りと下りの道に分かれた。とてもすれ違えないからだ。ようやく駐車場に着いたら、ほっとした。

 そこからは歩いて行くことになるが、この坂もきつい。一キロ余りの山道を、体を前のめりにして進んだ。息が切れる。暑い。歩いても、歩いても着かない。スクーターならまだまだ行ける道ではあった。しかし、ここまで来たからには歩くしかない。白装束も汗でびっしょりになって、ようやく到着した。

 こんな距離を歩いて向かったのは、今回の旅で初めてだ。少しでも歩きの雰囲気を楽しみたかったこともあるが、さすがにきつかった。
 車で来た一般の人もこの道を行くのだが、実は平成四年、山の反対側に西日本最大級と言われるロープウエーが設置され、本堂の真下まで楽に上がれるのである。だから、この道を利用する人はあまりいない。大半が歩き遍路だ。

 太龍寺は、巨大な杉の木が生い茂る山の中のお寺である。境内は広く、護摩堂から多宝塔まで伽藍は多い。お遍路さんも観光客もほとんどいなかったが、お経を唱える声がかすかに聞こえていた。よく聞こえないが、多分、ご本尊である虚空菩薩の真言「のうぼう あきゃしゃ きゃらばや おん ありきゃ まりぼり そわか」であったかもしれない。

 さて、今度は那賀川を挟んで向かいの山にある「二十番札所・鶴林寺(かくりんじ)」だ。こちらも標高は五〇〇メートル。いったん、県道まで下るのだが、これまた怖い。カーブに差し掛かるたびにスピードが落ちて、クラッチが切れる。エンジンブレーキが利かなくなるから、ちょっと吹かしてはつなぎ、スロットルを戻し……という作業を延々と繰り返さないとならない。
 だいたい、「制限時速五キロ」の標識がある。いかに急勾配かの証明だろう。(つづく)