
きょうも朝から蒸し暑い。奈半利を午前七時半にスタートし、ずっと海沿いの道を行く。すぐに室戸市に入った。国道五五号線は信号も少なく、ペースとしては順調だ。
室戸岬の手前で、こぶのように出っ張った行当岬を迂回し、ようやく「二十六番札所・金剛頂寺(こんごうちょうじ)」への上り口に差し掛かる。標高は一六五メートル。ここは室戸岬の突端にある「二十四番札所・最御崎寺(ほつみさきじ)」と同じ標高であり、西寺(にしでら)と呼ばれている。むろん、最御崎寺は東寺(ひがしでら)である。
お参りしていると、ローソク立てに「富山県 河村公一」と書いてあるのに気づいた。奉納したのである。郷里の富山は「真宗王国」と呼ばれるほど、浄土真宗の盛んなところだ。なのに、真言宗の熱心な信者もいるものだと認識を新たにさせられた。
どのお寺でもローソク立ては風で火が消えないよう、また火災防止のため箱状になっていて、正面がガラス戸になっている。規模はまちまちだが、ここにあったのは一〇本ずつ、五段に立てることができるのもので、標準的なサイズだろうか。
たいがい、「ローソクは上から立ててください」と書いてある。下から立てると、後の人がやけどをする可能性があるからだ。ついでに言えば「線香は真ん中から」とあるのも同じ理由である。
国道のある海岸線まで戻ってきたら、遍路休憩所に中年の男性二人が休んでいるのが見えた。いったん通り過ぎたが、思い直して少しだけバックし、声を掛けた。
「これ、食べませんか」。前にもらった梨が二個あった。いつ食べようかと思っていたが、歩きと違ってなかなかチャンスがない。ずっとバッグに入れたままだった。
「すいません、ありがたい。この暑さでのどが渇いて……」
ボクに梨をお接待してくれた遍路無料宿のおばちゃんには心の中で断った。「ボクより梨を必要としていた人がいたので、あげました」と。一人はそのままかぶりつき、もう一人はナイフを出して皮をむいた。二人ともうまそうに食べてくれたのが何よりだ。
「とにかく、のどが渇く」と二人は口をそろえる。そこで、
「ボクも去年はそうでしたよ。自販機を探して、ほとんど中毒のようになっていた。それも五〇〇ccのボトルを買って、その場で全部飲み干していた。ものの本には、がぶ飲みするとバテるから、してはいけないと書いてあったが、おかまいなしだったですね」と説明した。
炎天下、リュックを背負って延々と歩くと大量の汗をかく。もともと汗っかきだから、白装束の上下ともびっしょりとなるほどだ。水分を補給しないと熱中症になりかねない。いや、そんな理論より現実に体が水分を欲していたのだ。
二人には、この先の神峯寺への道や、難所について知っていることを教えた。逆打ちだというと、フュージョンを見て「方向違いますよ」と言う。「いや、通りすがりにあなたたちを見掛けたから、お接待しようとUターンしてきた」と答えたら、恐縮していた。
この二人が、連れなのかどうかも聞かなかった。もちろん、何のために遍路に出てきたのかも……。人はさまざまな思いを持って四国に来ている。軽い気持ちで尋ねることなどはしたくない。(つづく)