5遺体が見つかった平塚の事件は、未解明なことが多くて謎だらけだ。真相の究明が待たれるところだが、事件そのものはともかく、容疑者が「集団就職」だったという事実に言いしれぬ思いを抱く。
 逮捕された女性は昭和26年生まれで、まさに私と同じ年である。子供時代を過ごしたのは、昭和30年代初頭。こちらの記憶では戦後の混乱も収まり、豊かではなかったが社会全体が春の日差しのようにほんわかしていた時代であった。まさに「三丁目の夕日」に描かれていたような雰囲気だったと言っていい。
 しかし、地方では働くところがなくて集団就職や出稼ぎなど、家族と離れて暮らさざるを得ないという負の一面もあった。そうした中、自分は大学まで行けたことを親に感謝したいし、恵まれていたことをあらためて思う。

 日本は、東京オリンピックを契機に高度経済成長を果たした。中学卒は貴重な労働力として「金の卵」ともてはやされ、都会に出る。15歳で親と別れたのだ。
 そんな実態を少しは知っている。駆け出しの新聞記者として、集団就職列車を取材したからだ。青森からの長距離列車が到着する。ホームには多くの工場関係者が会社の旗を持って迎えに来ている。そこへ赤い頬をして学生服に身を包んだ子供たちが不安そうに降り立つのだ。どういう思いで取材していたのかはよく覚えていない。だが、親と離れてきたことをかわいそうに思っていたのは間違いない。
 もう一つは繊維会社が倒産し、働いていた金の卵たちが解雇されたときである。故郷へ帰るための荷造りをしている女の子たちを会社の寮で取材した。定時制高校のプログラムで、昼に一定時間勉強し、夜は工場で働くことができたので、そこへの就職を決めたのだったという。
 それが倒産である。話を聞きながら、こちらもこみ上げてくるものがあった。これからどうするかの当てもない。夜働いて昼に通える学校は少ないからだ。
 まさに、日本の断面であった。

 今、格差社会と言われて問題になっている。しかし、あの時代こそ格差社会であったのかもしれない。ただ、子供たちはみんな痛々しいほど真面目だったし、寂しくても希望に満ちていた。だからこそ、頑張ってほしいという気持ちと、かわいそうに思う気持ちが混沌としていたし、今とは違う格差社会への怒りもあった。
 高度成長を経て、日本は豊かになった。が、失ったものもあまりにも多い。季節で表すと絶頂期である夏から秋になって、今は冬なのかもしれない。殺伐とした人の心がそれを如実に表している。