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 ぬくい季節
「四十二番札所・仏木寺(ぶつもくじ)」は、一〇キロあまり南にある。またまた山の中だ。肱川に沿って県道二九号線をさかのぼり、橋を渡って県道三一号線に入る。急に山道となり、峠のトンネルを抜けると三間町に入る。下りてきたところが目的地だ。鐘楼が瓦ぶきでなく、かやぶきなのが珍しい。

 お参りを終えるとベンチにいた若い男性遍路が、おじさんと何やら話している。これから行く先の道について教えてもらっているらしい。そばにはリュックがある。話に加わろうとしたら、おじさんが、
「あんたは、どこに泊まるのか」と聞いてきた。
「いや、歩きじゃないんで……」
「そうなんか……」
「でも、去年歩いたんで、少しは道が分かりますよ」
 おじさんは、「そうか、そうか」と言って、青年の方を向き直り、「この人のほうが詳しい。教えてもらいなよ」と言っている。
 そこで、彼の持つ地図を見ると、ルートが線で示してある簡略なもので、分かりにくい。
「詳しい地図がバイクにあるから、待っていて」と言って、石段を下り、路肩に停めたフュージョンのトランクから地図を引っ張り出した。ふと思いついて、先ほどもらった梨も一個出してきた。
 境内に戻り、「お接待だよ」と言って梨を手渡すと、彼は素直に「あっ、ありがとうございます」と、受け取ってくれた。

 まずは、今来た道の逆を説明するわけだが、「峠を越えるかトンネルを行くかは、体力次第」と言ったら、「足が痛いからトンネルを行こうかと……」と答える。「それなら、トンネルを越えると遍路道があるから、そこを行ったほうがいい」とアドバイスした。登山道のような山道だが、下りなので比較的楽なのと、県道をずっと歩くと高度を徐々に下げるためにカーブの連続で遠回りだからと説明した。遍路道は真っ直ぐ平野部に下りてくるのである。
 彼が「いろいろとありがとうございます」と答えたので、「気をつけて。無理をしなければ必ず結願できるから」と励まして別れた。

「四十一番札所・龍光寺(りゅうこうじ)」は、三キロほど先である。狭い道の片隅にフュージョンを停め、長い石段を上る。山門はなく石の鳥居である。「三間のお稲荷さん」という。元は本尊が稲荷大明神だったが、神仏分離令で新たに本堂を建てたそうだ。
 小さな集落のなかに、石段を上って立派な寺と神社がある雰囲気はなかなか素晴らしい。
 下りてきたら、シャツ姿のおじさんがフュージョンをしげしげと見詰めている。
「いいナンバーやな」と言う。富山から来たことを指していることはすぐに分かった。
「たまにいるんだよ、札幌ナンバーとか。そちらもぬくい季節になったやろ」と言う。なぜか富山は北海道辺りにあると勘違いされているのだろうか。
「いや、北陸は冬に雪が降るけど、夏はこちらと同じで暑いですよ。六月から三〇度を超えていましたもの。むしろ、こちらより暑いこともよくあります」と、むきになって話をしてしまった。誤解されているのを解きたかったからかもしれない。
「そうなのか……」と言いながら、おじさんはフュージョンを見ながら、「こういうのは、ゆったり走れるから気持ちいいやろ」と答えて、去っていった。

 本日のお参りもここまで。時間も遅くなっているので、民宿は取れないだろうと、宇和島駅前のビジネスホテルに予約の電話を入れたら、「あいにく本日は満室でございます」と、断られた。
 ならばと、少しバックするが、途中で見かけた温泉施設に電話をしてみる。こちらはOKだ。県道沿いのそのホテルの自転車置き場にフュージョンを停めて、入ってみて分かった。プールやボウリング場などもあり、一般の人が多く利用している。
 温泉でゆっくりと疲れを取って、レストランへ夕食を食べに行った。どうやら児童クラブのような団体が入っているらしく、子供たちもたくさんいてにぎやかだ。外では別のグループなのか、外国人も混じってバーベキューをしていて、時折、写真のフラッシュが光る。そんな楽しそうな光景を見ながら、一人旅の遍路ツーリングをかみしめていた。(つづく)