だんごと缶コーヒー
 大宝寺の参道を再び歩いて戻る途中、土産物店のおばちゃんに呼び止められた。
「どうですか、お茶を飲んでいってください。お接待しますよ」
 お接待をしてもらう気はなかったが、前年も同じく声を掛けられ、飲んでいったので、そのお礼を言いに、おばちゃんのところへ行った。

「去年もお世話になったんですよ。歩いて回っていて、声を掛けられました」などと言って、いろいろと遍路模様を話し込んだ。お客はほかにいなかったし、おばちゃんも関心を持って聞いている。
 少し甘いお茶もいただいたし、そろそろ行こうとすると、突然、パック詰めされた五個入り三五〇円の「やいとだんご」と缶コーヒーをビニール袋に入れ、「お接待するよ」と差し出した。
 これには困った。
「商売物をいただくわけにはいきません。お代金払います」と断ったが、
「いや、これは気持ち。お接待は断れないよ」と引き下がらない。
 もうこうなったら、ありがたくいただくしかない。
「ありがとうございます。ご家族のご健康と、お店の繁盛をお祈りいたします」と言葉遣いを改めて、そう言ったのである。

 小売店にとって、ひとつひとつの小さな商いがどれだけ大切なことか承知している。サラリーマンを辞めて自由業になったから、余計にそう感じることができる。だからこそ、通りすがりの者に商売物を喜捨する心に感動してしまう。自分の欲得しか考えない現代社会だから、なお尊く思えるのだ。
 駐車場に戻ると片隅に小屋があり、そばにベンチも置いてあったので、冷たい缶コーヒーを座って飲んだ。パック詰めのだんごはスポーツバッグに入れた。人の好意にどうこたえていいのか。本気にそう思って、これからの参拝はさらに真摯(しんし)にしなくてはならないと心に誓うしかなかった。

 雨は完全に上がっている。これからしばらくは山の中の国道を走る。安全運転で行こうと思う。再び国道三三号線に入り、七キロほど先の三叉路で国道三八〇号線を右方向に行く。このあたりはまだ路面が濡れていて、先ほどの雨の名残がある。しかし、それも急速に乾いてきた。
 新真弓トンネルを抜け、休憩所を過ぎると、とたんに道幅が狭くなり林道状態となる。小田町に入るとまた、道幅が広がったり、狭くなったりするが、おおむね快適な道路と言っていい。いつしか内子町に入っていた。国道は三七九号線に代わっている。小田川に沿ってどんどん下っていく。(つづく)