
宿は予約したが、さらに先の「四十八番札所・西林寺(さいりんじ)」へ行ってから、投宿することにした。バイクだとこういう芸当ができるからうれしい。歩きなら、たとえ一歩でもバックしたくないという気持ちになる。いや、足の強い人だと、少しぐらいの距離なら往復するのかもしれないが……。まあ、ほとんどの人は敬遠するだろう。
西林寺は、駐車場が仁王門のそばにある。だが、徒歩用の正規の参道から来ると太鼓橋を渡って、少し石段を下りると着く。普通は石段を上がるものだから、西林寺だけが例外なのだ。このことから無間地獄(むげんじごく)に例えられているという。そんなイメージとは全く違い、美しい庭園があり、心なごむお寺である。
Uターンして、ホテルに向かった。本館入り口には「歓迎 津田様」の看板がある。細長い黒板に白字で書いてあるのだが、誰もボクのことを知らないとはいえ、なぜか照れてしまう。
フロントのおばちゃんが愛想のいい人で、チェックインをしながらすっかり話しこんでしまった。食事の希望時間を聞かれ、「その間に、お布団を敷いておきます」と言われた。入った部屋は確かに古いし、エアコンもリモコンはなく壁に取り付けたスイッチを操作する旧式のものである。しかし、安心して横になれるのだから、極楽に違いない。
温泉施設だけに、いくつもお風呂がある。宿泊者専用のお風呂に入った後、汗で汚れた下着や白装束を抱えて、玄関を出たところにあるコインランドリーへ行く。ご飯を食べている間に洗濯して、食べ終わったら乾燥機に入れに行こうという算段である。こうして毎日、洗濯しているから慣れたものである。
浴衣に着替えて、迷路のような廊下を伝ってレストランへ。給仕の女性に部屋のキーを見せる。「そこです」と案内されたテーブルには、またもや「津田様」のプレートがあった。食事は決まった料理が出てくる。刺し身から鍋物まであり、遍路にはぜいたく過ぎたかもしれない。
時間が早いせいか、ほとんど人はいない。すぐそばでビールと冷酒を飲んでいたおじさんが、隣のテーブルの夫婦連れに声を掛け、車で遍路をしていることなどを話している。一人でご飯を食べているのは味気ないからだろう。早速、ボクも話に加わったのは言うまでもない。旅は道連れ、世は情け。これが旅の醍醐味だ。(つづく)