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 礼儀正しい青年遍路
「五十番札所・繁多寺(はんたじ)」は、県道四〇号線を三キロほど南進するとすぐに到着する。わずかな距離だが、もう都市の喧騒(けんそう)を外れ、静かなたたずまいを見せている。標高八〇メートルの高台にあり、境内が広々としているせいかもしれない。その境内からは市街地を眺められ、瀬戸内海も遠くに見える。

 ベンチに若い男性遍路が腰を掛けていたので、ボクも座って話しかけた。彼はリュックを持っているから、一目で歩きだと分かる。
「どちらから?」
「茨城です」
「野宿しているの?」
「たまに。でも蚊が多くて」
「きょうはどこに泊まるの?」
「石手寺あたりに……」
「民宿、あまりないよ」
「ビジネスホテルでもいいんです」
 初めて遍路に出たという。そこで、この先のことなどをいろいろとアドバイスし、「お寺とお寺の間に、忘れがたい思い出が出来るよ。それを大事にすればいい。こうやって話したことも思い出になるし……」などと、年寄り臭いことを言ってしまった。
「じゃあ、お参りしてくるよ」と言うと、彼はわざわざ立ち上がって、
「ありがとうございました」と頭を下げた。少なくとも遍路に出てくる青年は、一般の青年よりはるかに純粋で礼儀正しいというのは、ボクだけの見方だろうか。そして、まだまだ日本にこうした青年がいることを何だかうれしく思ってしまう。
 参拝を終え、再びベンチに戻ってきたとき、彼の姿はなかった。「無事に結願してほしい」と心の中で祈るだけである。

 次の「四十九番札所・浄土寺(じょうどじ)」は、二キロも離れていない。スクーターならあっという間に着く。仁王門の阿形像(あぎょうぞう)は目がなく空洞になっていて不気味な感じだ。これは目玉が盗まれたためだという。昔も罰当たりがいたのである。本堂前に団体さんがいたが、そのうちの一人のおじさんに「どちらから?」と聞いたら、「山口県の徳山からです」との答えが返ってきた。
 境内で、この日の宿の予約をする。近くの温泉施設で鷹の子温泉ホテルという。建築年数が古くて割安な本館と、新しい新館がある。もちろん、遍路旅だから本館にする。(つづく)