雨中の女性遍路
「五十二番札所・太山寺(たいざんじ)」へは円明寺を出て県道一八三号線を真っ直ぐ行くと、二キロ半ほどで着く。道のカーブ地点に一ノ門があり、それをくぐって行くと普通の街並みが続く。続いて山門が現れる。平地からいきなり標高七五メートルのところにお寺があるので、急坂を駆け上がることになる。途中に駐車場はあるが、行けるところまで行って最後の駐車場に停めて歩き出した。
その途端、若い女性の歩き遍路に出会った。上下とも赤色の雨具。背負っているリュックには専用のレインカバーとおぼしきものが被せてある。つまり、ビシッとした格好だ。私に向かって、ペコッと頭を下げてすれ違った。「若い女性の歩き遍路は珍しいなあ、話せなくて残念だ」と心の中で思う。
石段をどんどん上がっていくと、立派な仁王門がある。その先の本堂は鎌倉時代に再建された国宝である。境内には白装束こそ着ていないが、車遍路が数人。しとしとと降る雨の中、静かなお参りだった。
駐車場に戻ってエンジンを掛け、今来た参道を下る。一ノ門の手前で、先ほどの女性遍路に追いついた。ボクは逆打ちだから、普通のお寺だと行き先が右と左に分かれるため二度と会うことはないのだが、ここは一ノ門まで一キロほどあるため、また会ったのだ。並んだところで、思わずスクーターを停めた。
「歩きですか?」
われながら、当たり前の言葉を掛けたなあと思ったが、ほかには浮かばない。
「そうです」
「ここまで来たら、あと少しですよ」。これまた、ありきたりの言葉しか出てこない。いや、とんちんかんな発言だっただろう。順打ちとしてもまだ五十二番。先は長いのに、だ。また、区切り打ちであれば、そんなことは関係ない。
二、三分、雨中で立ち話をしてから、
「じゃあ、気を付けて。頑張って!」と声を掛け、「ボクは石手寺(いしてじ)に向かいます」と付け加えた。
「えっ?」
「逆打ちなんで」。それだけ言うと、スロットルをひねった。
単に、歩き遍路を励ましたかっただけである。
「五十一番札所・石手寺」は、松山市内の中心部にある。道後温泉の近くと言ってもいい。県道一八七号線を東に進むと繁華街が広がる。道後温泉のホテルが建ち並ぶなかを通過し、約一〇キロで到着する。年中、人であふれているお寺だ。もう、雨はほとんど上がっていた。
参道の隣に有料駐車場があったから、そこに停めようとしたら、係りのおじさんが、参道のほうに行けと手で合図している。参道脇の小さなスペースに停めよということらしい。石で出来た車両止めの間をすり抜けて、停めさせてもらった。もちろん、無料だ。心の中で「ありがと~」と手を合わせた。
ここは善通寺と並んで四国霊場を代表する寺院である。大きなわらじが奉納されている仁王門の中には運慶一門の作という金剛力士像が安置されている。境内には三重塔や宝物館もある。見には行かなかったが、本堂の裏山には全長一五〇メートルものマントラ洞があるそうだ。境内には全体の案内地図が置いてあり、持ち帰ることができる。それほど見所は多い。
しかし、この日は人が意外に少なかった。お茶堂に冷茶器が置いてあり、自由に飲めるようになっている。早速、ボタンを押して、お茶碗で二杯いただいた。のどにしみていくようなうまさだった。(つづく)
「五十二番札所・太山寺(たいざんじ)」へは円明寺を出て県道一八三号線を真っ直ぐ行くと、二キロ半ほどで着く。道のカーブ地点に一ノ門があり、それをくぐって行くと普通の街並みが続く。続いて山門が現れる。平地からいきなり標高七五メートルのところにお寺があるので、急坂を駆け上がることになる。途中に駐車場はあるが、行けるところまで行って最後の駐車場に停めて歩き出した。
その途端、若い女性の歩き遍路に出会った。上下とも赤色の雨具。背負っているリュックには専用のレインカバーとおぼしきものが被せてある。つまり、ビシッとした格好だ。私に向かって、ペコッと頭を下げてすれ違った。「若い女性の歩き遍路は珍しいなあ、話せなくて残念だ」と心の中で思う。
石段をどんどん上がっていくと、立派な仁王門がある。その先の本堂は鎌倉時代に再建された国宝である。境内には白装束こそ着ていないが、車遍路が数人。しとしとと降る雨の中、静かなお参りだった。
駐車場に戻ってエンジンを掛け、今来た参道を下る。一ノ門の手前で、先ほどの女性遍路に追いついた。ボクは逆打ちだから、普通のお寺だと行き先が右と左に分かれるため二度と会うことはないのだが、ここは一ノ門まで一キロほどあるため、また会ったのだ。並んだところで、思わずスクーターを停めた。
「歩きですか?」
われながら、当たり前の言葉を掛けたなあと思ったが、ほかには浮かばない。
「そうです」
「ここまで来たら、あと少しですよ」。これまた、ありきたりの言葉しか出てこない。いや、とんちんかんな発言だっただろう。順打ちとしてもまだ五十二番。先は長いのに、だ。また、区切り打ちであれば、そんなことは関係ない。
二、三分、雨中で立ち話をしてから、
「じゃあ、気を付けて。頑張って!」と声を掛け、「ボクは石手寺(いしてじ)に向かいます」と付け加えた。
「えっ?」
「逆打ちなんで」。それだけ言うと、スロットルをひねった。
単に、歩き遍路を励ましたかっただけである。
「五十一番札所・石手寺」は、松山市内の中心部にある。道後温泉の近くと言ってもいい。県道一八七号線を東に進むと繁華街が広がる。道後温泉のホテルが建ち並ぶなかを通過し、約一〇キロで到着する。年中、人であふれているお寺だ。もう、雨はほとんど上がっていた。
参道の隣に有料駐車場があったから、そこに停めようとしたら、係りのおじさんが、参道のほうに行けと手で合図している。参道脇の小さなスペースに停めよということらしい。石で出来た車両止めの間をすり抜けて、停めさせてもらった。もちろん、無料だ。心の中で「ありがと~」と手を合わせた。
ここは善通寺と並んで四国霊場を代表する寺院である。大きなわらじが奉納されている仁王門の中には運慶一門の作という金剛力士像が安置されている。境内には三重塔や宝物館もある。見には行かなかったが、本堂の裏山には全長一五〇メートルものマントラ洞があるそうだ。境内には全体の案内地図が置いてあり、持ち帰ることができる。それほど見所は多い。
しかし、この日は人が意外に少なかった。お茶堂に冷茶器が置いてあり、自由に飲めるようになっている。早速、ボタンを押して、お茶碗で二杯いただいた。のどにしみていくようなうまさだった。(つづく)