「富山のどこ?」
「五十七番札所・栄福寺(えいふくじ)」は、山から下りて二キロあまりで到着する。駐車場入り口の坂の途中に停めた。先は石段で行き止まり。これが失敗だった。帰りにサイドスタンドを外すと、フュージョンは坂道を下がろうとする。ブレーキを掛けて止めてエンジンを掛けたが、今度はUターンするほどの道幅がない。結局、エンジンを吹かしながら切り替えしを数度やって事なきを得た。要は、ちょろいのである。車で来たおじさんが、こちらのナンバーを見て
「富山か……。遠いとこから来たなんやあ」と感心して走り去った。

「五十六番札所・泰山寺(たいざんじ)」も、三キロあまりしか離れていない。しかし蒼社川を挟んでいるために、やや迂回しなくてはならない。
 こちらのお寺でも路上に停めた。山門の向かい側は田んぼが広がっている。頭陀袋を取り出して門前に歩いて行こうとすると、商店からいきなり声が掛かった。
「富山のどこ?」。ナンバーを見たのだろう。おじさんが珍しい質問をしてくる。富山に詳しいのだろうか。店に入って、「ホタルイカが捕れる滑川というところです」と答えると、
「滑川! 知っとる、知っとる。オレは長野の諏訪や」と言う。
 なんだか訳が分からないが、いつの間にか、店のおばちゃんを交えて世間話になった。ボクが、「今回は逆打ちなんです」と説明すると、おばちゃんは「じゃあ、お大師様に早く会えるね」と言う。本当に信心深い人たちである。
 石垣に囲まれたユニークなお寺で参拝を済ませ、帰りに商店の前を通ったら、おばちゃんが「気をつけて」と声を掛けてくれたので、また店に入っていった。
「これも、ご縁ですから何か買います。冷たいもの」
「水かお茶だね」
「じゃあ、水ちょうだい」
「一五〇円です」
「あのー、お釣りは一〇円玉がありがたいのだけど……」
 ここでも一〇円玉を手に入れておきたかった。

「五十五番札所・南光坊(なんこうぼう)」は四キロほど先にあり、今治の中心部に程近い。分かりにくい道だが、通りかかった人に聞いたら一発で到着した。
 境内で休んでいると、団体さんが大型バスで来た。久しぶりに大きな団体を見たような気がして眺めていると、本堂と大師堂で先達の声に合わせて読経したら、風のように去っていった。日程があるから当然なのだろう。こちらは自由である。毎日行けるところまで行くだけだ。(つづく)