仙境へお礼に
昨夜行けなかったホテルのレストランで、トーストにスクランブルエッグの朝食を摂った。小さなブドウとメロンが付いていたのが、なんとなくうれしい。
曇り空である。屋根付きの自転車置き場に停めたフュージョンのエンジンに火を入れる。一発で「パタ、パタ、パタ」と掛かった。道は一本。国道一九六号線を西に向かう。流れに乗って快適なツーリングだ。目指すは「五十九番札所・国分寺(こくぶんじ)」。
途中から国道と並行する県道一五六号線に入るのだが、間違えた。県道三八号線も並行するから分かりにくい。うろうろしていたら桜井小・中学校の前に出たのでようやく地図を確認して分かった。町の中のお寺は本当に難しい。
お参りを終えて、一〇メートルあまり走ったら、頭がスースーする。はっと気がついたら、ヘルメットを被っていない。ホルダーに付けたままだ。日焼け防止の腕カバーなどはきちんと付けたのに、とてもうっかりである。路上でサイドスタンドを立て、キーを抜いてヘルメットを外し、再び発車だ。本日は走行に、より注意をしよう。
次の目的地は「五十八番札所・仙遊寺(せんゆうじ)」である。六キロあまりしか離れていないが、標高は二二五メートルある。一気に山の霊場の雰囲気になることころだ。上り坂になってから、大きな犬を連れていた女性に「仙遊寺さんは、この道でよかったですか?」と聞いた。念を入れたのである。
「そうです。真っ直ぐです」。犬が後足で立ち上がって近づこうとする。犬好きなので怖くはないが、こちらは月光仮面状態である。不審人物と見られても仕方ないので、早々に立ち去った。
快適な舗装路をぐんぐんと上る。仁王門を左手に見てさらに駆け上がる。仙遊寺という名前は、長年住み着いていた仙人が、雲と戯れるように姿を消したところから付いたそうだ。宿坊からは今治の市街地や瀬戸内海に浮かぶ島々、しまなみ海道などが眼下に見て取れる。うたい文句どおり、「伊予の仙境」である。
お参りを終えて、お寺の人に声を掛けようとしたが、誰もいない。前年宿坊に泊めてもらって、ご住職に座禅を体験させていただいたし、奥さんにもよくしていただいた。そのお礼をどうしても言いたい。鉄筋コンクリート造りの宿坊のほうに回って、声を掛けたがこちらも応答なし。本堂と宿坊を二度往復したら、作業に来ていた人が
「本堂に入って、ベルを押せば来られますよ」と教えてくれた。それは分かっていたのだが、納経帳に書いてもらうときや何か購入するときに呼び出すためのものである。お礼を言うだけに使うのは気が引けていた。
しかし、そうまで言われると押さざるを得ない。音はしなかったが赤い小さなランプがインターフォンに点灯して、つながったことを示していた。しばらくして、若い女性が出てきた。ボクは名乗ったうえで、前年、住職や奥さんに大変お世話になったことなどを話した。女性は静かに話を聞いたうえで、
「必ず伝えておきます。ありがとうございました」と答えた。これで気が楽になった。今回の旅の目的の一つは達したような気分がしていた。(つづく)
昨夜行けなかったホテルのレストランで、トーストにスクランブルエッグの朝食を摂った。小さなブドウとメロンが付いていたのが、なんとなくうれしい。
曇り空である。屋根付きの自転車置き場に停めたフュージョンのエンジンに火を入れる。一発で「パタ、パタ、パタ」と掛かった。道は一本。国道一九六号線を西に向かう。流れに乗って快適なツーリングだ。目指すは「五十九番札所・国分寺(こくぶんじ)」。
途中から国道と並行する県道一五六号線に入るのだが、間違えた。県道三八号線も並行するから分かりにくい。うろうろしていたら桜井小・中学校の前に出たのでようやく地図を確認して分かった。町の中のお寺は本当に難しい。
お参りを終えて、一〇メートルあまり走ったら、頭がスースーする。はっと気がついたら、ヘルメットを被っていない。ホルダーに付けたままだ。日焼け防止の腕カバーなどはきちんと付けたのに、とてもうっかりである。路上でサイドスタンドを立て、キーを抜いてヘルメットを外し、再び発車だ。本日は走行に、より注意をしよう。
次の目的地は「五十八番札所・仙遊寺(せんゆうじ)」である。六キロあまりしか離れていないが、標高は二二五メートルある。一気に山の霊場の雰囲気になることころだ。上り坂になってから、大きな犬を連れていた女性に「仙遊寺さんは、この道でよかったですか?」と聞いた。念を入れたのである。
「そうです。真っ直ぐです」。犬が後足で立ち上がって近づこうとする。犬好きなので怖くはないが、こちらは月光仮面状態である。不審人物と見られても仕方ないので、早々に立ち去った。
快適な舗装路をぐんぐんと上る。仁王門を左手に見てさらに駆け上がる。仙遊寺という名前は、長年住み着いていた仙人が、雲と戯れるように姿を消したところから付いたそうだ。宿坊からは今治の市街地や瀬戸内海に浮かぶ島々、しまなみ海道などが眼下に見て取れる。うたい文句どおり、「伊予の仙境」である。
お参りを終えて、お寺の人に声を掛けようとしたが、誰もいない。前年宿坊に泊めてもらって、ご住職に座禅を体験させていただいたし、奥さんにもよくしていただいた。そのお礼をどうしても言いたい。鉄筋コンクリート造りの宿坊のほうに回って、声を掛けたがこちらも応答なし。本堂と宿坊を二度往復したら、作業に来ていた人が
「本堂に入って、ベルを押せば来られますよ」と教えてくれた。それは分かっていたのだが、納経帳に書いてもらうときや何か購入するときに呼び出すためのものである。お礼を言うだけに使うのは気が引けていた。
しかし、そうまで言われると押さざるを得ない。音はしなかったが赤い小さなランプがインターフォンに点灯して、つながったことを示していた。しばらくして、若い女性が出てきた。ボクは名乗ったうえで、前年、住職や奥さんに大変お世話になったことなどを話した。女性は静かに話を聞いたうえで、
「必ず伝えておきます。ありがとうございました」と答えた。これで気が楽になった。今回の旅の目的の一つは達したような気分がしていた。(つづく)