別人28号
横峰寺のお参りを終えて駐車場に戻ってきたが、すぐに発車する気にならない。駐車場の片隅に飲料水などを売るプレハブの店が一軒あったから、若い女性店員に声を掛けて、かき氷を注文した。先ほど走行中に目に入った喫茶店で、かき氷を食べた去年のことを思い出したせいかもしれない。
木のベンチに座って、先の開いたストローで氷をすくっていると、スポーツバイクが着いた。若い男性である。シートには白いタオルを掛けている。なるほど、それで熱くなるのを防止しているのかと、感心しながら見ていた。どうやら、駐車場から先の道を確認しているようで、行ったりきたりしている。思わず、声を掛けた。
「どこから来たの?」
「鳥取です。ここを下りていけばいいんですよね」
「そうそう、下りたらすぐに分かるよ。迷うことはないから」
「ありがとうございます」と青年は答えて、すぐに去っていった。
もう少し、いろいろと話をしたかったが、引き止めるわけにもいかない。かき氷を食べ終わって、女性店員にお礼を言ってから、乗車した。
山道を下っている最中に、バス乗り換え所にある旅館に立ち寄った。前年、一泊させてもらっており、そのお礼だ。入り口が土産物店になっているので、遍路用品などを見物した揚げ句、
「何か飲み物はありませんか」と聞いたら、
「アイスコーヒーとか……」と若旦那が答えた。そういや、アイスコーヒーをしばらく飲んでいない。カウンターに座って、去年お世話になったことを告げた。
「道理で、どこかで見た顔だと思っていた」と笑顔がこぼれる。
「いやー、あんときはヒゲを生やしていたからなあ。猜命唯横弦罩瓩任垢茵そういや、ご飯食べているとき、あなたに写真撮られましたよね。で、ボクは『逃亡者としてはまずいなあ』と冗談を言った」
「えー、覚えています」と返事が返ってきたが、どの程度覚えているのかは定かではない。
「温泉が白濁しているお湯だったけど……」
「あれは石鎚山から出ているお湯なんですよ」
話はとめどなく続く。最近、お遍路さんが減っているという話を聞いたから、「愛知万博の影響ですかね」と聞いてみた。
「そういうのを理由にする人もいます。でも実際は、NHKで遍路のドラマなどをやって一時期ブームになったけど、今は本当に遍路をしたい人だけになったのかもしれないですね。それと交通機関がよくなって、泊まらなくなったのもある。すぐにどこにでも行けますからね」
なるほど、その通りだ。
「きょうは、ここに泊まりたいけど、まだ先があるので……」と断ったボクみたいのがいるのである。アイスコーヒーの代金を払って、山を下りる。
その割には、きょうはもう先へ行く元気がなくなってきた。近くの東予市のビジネスホテルに予約の電話を入れたらOKというので、そこに向かう。さっぱりとシャワーを浴びた後、レストランは本日貸しきりとかで、向かいのうどん店に行く。イクラ丼とうどんのセットで生ビールを飲んだ。讃岐に限らず、四国はどこでもうどんがうまい。そして低料金だ。とても幸せである。
ホテルに戻って洗濯していて、気付いた。本日は「土用丑の日」。こんな日にイクラ丼ではなかった。すべて後の祭りだ。(つづく)
横峰寺のお参りを終えて駐車場に戻ってきたが、すぐに発車する気にならない。駐車場の片隅に飲料水などを売るプレハブの店が一軒あったから、若い女性店員に声を掛けて、かき氷を注文した。先ほど走行中に目に入った喫茶店で、かき氷を食べた去年のことを思い出したせいかもしれない。
木のベンチに座って、先の開いたストローで氷をすくっていると、スポーツバイクが着いた。若い男性である。シートには白いタオルを掛けている。なるほど、それで熱くなるのを防止しているのかと、感心しながら見ていた。どうやら、駐車場から先の道を確認しているようで、行ったりきたりしている。思わず、声を掛けた。
「どこから来たの?」
「鳥取です。ここを下りていけばいいんですよね」
「そうそう、下りたらすぐに分かるよ。迷うことはないから」
「ありがとうございます」と青年は答えて、すぐに去っていった。
もう少し、いろいろと話をしたかったが、引き止めるわけにもいかない。かき氷を食べ終わって、女性店員にお礼を言ってから、乗車した。
山道を下っている最中に、バス乗り換え所にある旅館に立ち寄った。前年、一泊させてもらっており、そのお礼だ。入り口が土産物店になっているので、遍路用品などを見物した揚げ句、
「何か飲み物はありませんか」と聞いたら、
「アイスコーヒーとか……」と若旦那が答えた。そういや、アイスコーヒーをしばらく飲んでいない。カウンターに座って、去年お世話になったことを告げた。
「道理で、どこかで見た顔だと思っていた」と笑顔がこぼれる。
「いやー、あんときはヒゲを生やしていたからなあ。猜命唯横弦罩瓩任垢茵そういや、ご飯食べているとき、あなたに写真撮られましたよね。で、ボクは『逃亡者としてはまずいなあ』と冗談を言った」
「えー、覚えています」と返事が返ってきたが、どの程度覚えているのかは定かではない。
「温泉が白濁しているお湯だったけど……」
「あれは石鎚山から出ているお湯なんですよ」
話はとめどなく続く。最近、お遍路さんが減っているという話を聞いたから、「愛知万博の影響ですかね」と聞いてみた。
「そういうのを理由にする人もいます。でも実際は、NHKで遍路のドラマなどをやって一時期ブームになったけど、今は本当に遍路をしたい人だけになったのかもしれないですね。それと交通機関がよくなって、泊まらなくなったのもある。すぐにどこにでも行けますからね」
なるほど、その通りだ。
「きょうは、ここに泊まりたいけど、まだ先があるので……」と断ったボクみたいのがいるのである。アイスコーヒーの代金を払って、山を下りる。
その割には、きょうはもう先へ行く元気がなくなってきた。近くの東予市のビジネスホテルに予約の電話を入れたらOKというので、そこに向かう。さっぱりとシャワーを浴びた後、レストランは本日貸しきりとかで、向かいのうどん店に行く。イクラ丼とうどんのセットで生ビールを飲んだ。讃岐に限らず、四国はどこでもうどんがうまい。そして低料金だ。とても幸せである。
ホテルに戻って洗濯していて、気付いた。本日は「土用丑の日」。こんな日にイクラ丼ではなかった。すべて後の祭りだ。(つづく)