北朝鮮に拉致された横田めぐみさん関連の報道が、連日行われている。めぐみさんの夫とみられる人が、拉致された韓国人である可能性が極めて高いことがDNA鑑定で明らかになって、また新たな事実が浮かび上がったのだから無理もない。

 しかし、かすかな手がかりや、少しでも打開へ向けた方策が見えてくるたびに、ほんろうされつつも気丈に振舞う横田夫妻の気持ちを思うといたたまれない。
 いや、ことは個々人だけの問題ではない。国の問題なのである。国家というのは、国民の生命財産を守るのが最大の使命であり、最低限の義務であろう。「拉致は主権の侵害」と政府が言っているのも当然だ。しかし、現状はなかなか手が出せない。

 日本人より韓国人の拉致事件が件数としては、はるかに多いのにかかわらず、韓国内でそれほど問題とならなかったのも、北朝鮮を刺激したくないという韓国政府の意向が反映したものである。ことほどさように、正論がなかなか通らない。

 さかのぼって考えると、同じ民族が朝鮮戦争で南北に分断したが、それはアメリカとソ連によって後押しされた勢力による悲劇である。資本主義と共産主義の対立の産物なのは言うまでもない。
 より複雑にしているのは、日本人の大半は忘れてしまったが、戦前の日本による植民地化に伴う被害国の感情である。このように絡み合った糸をほどくのは、情報の行き来でお互いの理解が深まることしかない。

 かつては東ドイツからベルリンの壁を越えて西側に逃れようとして多くの人命が失われた。これも東西冷戦の表に露出した部分であったが、東ドイツ国民が西側の衛星放送を受信してさまざまなことを知ったために、あっけなく壁は崩壊した。解決の見込みはないと思われた東西ドイツが一瞬で統合されたのだ。まさに情報が強固な壁を乗り越えた。
 北朝鮮の国民は情報統制されているにかかわらず、口コミで何でも知っているとも言われる。それがいい方向へ向かうことを切に期待したい。

 国とはいったい何なのか-。国と国の狭間で被害にあった未帰還者の問題は、こうしたことも考えさせる。日韓関係を改善させ、協力して一日も早い拉致被害者全員の無事帰還と朝鮮半島の平和のために動く。それが政府に課せられた最大にして最低限の課題とも言えるだろう。