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 このエッセーは、昨年夏、四国八十八カ所をスクーターで回ったときの記録である。前年に歩き遍路を結願したことに対するお礼参りの意味で再び巡礼を目指したのだ。日程的にスクーターという乗り物を使ったが、四国の人々の優しさはなんら変わらなかった。出会った人々すべてに感謝を込めてー

 小雨がずっと降り続いていた。大型の台風七号が接近しているという。真夏の雨は周辺の緑を一層濃くしているが、山の寺に着いたときは、その濃い緑と灰色の空のためにひどく暗い感じを覚えた。
 門前の路肩に愛車のスクーター・ホンダフュージョンを停めた。土産物店の邪魔にならないよう、少しだけ離れたところだ。エンジンを切って、ボクは最初の一歩を踏み出した。

 四国霊場八十八番札所・大窪寺(おおくぼじ)=香川県さぬき市。
二天門をくぐって進むと、本堂の前には一組の夫婦遍路がいた。その姿を見詰めながら、誰に言うともなく「帰ってきたよ」とつぶやいた。
 本当に「帰ってきた」のだ。遍路となって一二〇〇キロを歩き通し、やっとたどり着いたお寺。あれから一年。ここが、今度の旅の出発点だ。
 
 境内で一人の少年を思い出していた。地元の小学校四年生だった将人くん。夏休みの自由研究だというアンケートを持ってきて、いくつもボクに質問し、最後にこう尋ねた。
「また来たいと思いますか?」
痛む足をひきずり、五二日間の苦闘の末に到着したお寺で、痛いところを突かれた。苦しまぎれに、
「機会があれば、また来たいですね」と答えた。だからこそ、「そのとおり、ちゃんと来たよ」と、心の中で話しかけていた。雨に濡れた伽藍(がらん)が、より荘厳なたたずまいとなって目に映った。

 いよいよ始まる。四国霊場八十八カ所めぐりのツーリング。
単に四国を一周するだけなら、歩きと違って苦しくもないし、あっという間に終わるだろう。だが、すべてのお寺をお参りするのが最大の目的だ。どれだけの日数で回れるか皆目、見当もつかない。楽しみ半分、不安が半分。
「さて、やるか」。口をついて出た言葉は、もちろん自分に言い聞かせるためだった。(つづく)