ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・18・記憶の底のジェシカ・1 | 北風明理のブログ

ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・18・記憶の底のジェシカ・1

「・・・・」

 

ナゼールの洞窟の最下層で、一人の少女が短剣をたずさえ、歩を進めていた。

 

七英雄の一人、ダンタークが根城にしていたという情報を頼りに、

 

今目的の人物へとたどり着く。

 

「・・誰だ」

 

眠るように4本の足をかがませて、座っていたダンターグが身を起こすと、少女は

 

息をのんで、両手で短剣を構える。

 

ダンターグはふっと嘲笑すると、おかしそうに言った。

 

「イロリナの星か? 短剣は両手で持つものじゃないぞ」

 

「うっ・・ あ、あなたになんか、まけないもの!」

 

間合いを詰めて、短剣を突き立てようとした少女を、ダンターグは後ろから

 

掌で抱え込むと、両手で体を包み込み、にぎって、持ちあげた。

 

イロリナの星が音を立て、無情に地面に転がり落ち、悲鳴をあげる。

 

息をのんで頬を染める彼女を彼の頭の高さまで上昇させると、顔を見て眉をあげた。

 

「その瞳・・お前、皇帝か? 仲間はどうした」

 

少女は真っすぐに瞳を見据えて、弾かれた様に強い口調でささやいた。

 

「だ、誰も来てくれなかったんだもの・・でも、負けないわ!

 

 わたしは、皇帝ジェシカは、あなたを倒して、みんなに認めてもらって・・」

 

「ふん」

 

不機嫌そうに手に力を込めると、ジェシカの体はいとも簡単に軋んだ。

 

身に着けていたレザーアーマーが変形し、二重に胴を圧迫していく。

 

顔を真っ赤にして、必死に彼女はにらむ、というより上目遣いのアングルで、

 

みようによっては見つめている様にも見えた。

 

「わ、わたしは、負けない! 屈しない! 皇帝だものーーーー」

 

しぼる様に声をあげる彼女を、おもむろに力を込めると、ばきりという音がした。

 

動きを止めると、その肩の骨と鎖骨が割れて、折れていた。

 

声を立てて息をのみ、そして息づかいを激しくして、目に涙を浮かべるジェシカ。

 

そんな彼女に、ダンターグは笑いながらさらに指に力を込めて言った。

 

「なんだ、お前の覚悟はそんなものだったのか?」

 

ジェシカは、あたかも聞いていないふりをしながら、涙のあふれる目を閉じて、

 

悔しそうに、恥じらう様に声を漏らした。

 

「わたしは、まけない・・ わたしは、屈し、ない・・ そう思って、きめて

 

 ここまできたの・・きたのに・・ こんなに簡単にまけちゃった・・

 

 い、痛いよお・・。・・す、好きにするがいいわ、 わたしは、

 

 どうせみんなが言うように、だめな、最低の皇帝なんだから・・」

 

うつむいて肩に負担がかかり、うっと呻いて、もう一度うつむく。

 

ダンターグが不思議そうに見つめる中、かすれた声をひねり出した。

 

「わたしが、ここで死ねば、もっと力のある人が、皇帝にだってなれる・・」

 

そうして、かくっと首を下げ、瞳を閉じたままで沈黙した。

 

その時、土色の波動が、彼女の身体を下から、包み込んだ。驚いて顔をあげると、

 

肩の骨と鎖骨が、程なくして治っていた。

 

目をしばたかせ、記憶の声をたどるような声で、ジェシカはつぶやいた。

 

「アース・・ヒール・・・?」

 

誰がその術を掛けたのか、不思議に思ったが、その主は一人しか、見当たらなかった。

 

「どうして・・治すの・・?」

 

ダンターグは気まずそうに、苦笑しながらつぶやいた。

 

「いや・・何だか、見ていて不憫になってな・・。」

 

「なによ。どうせわたしは、かわいそうよ。哀れよ。

 

 何で皇帝に選ばれたんだって、みんなが疑問におもうくらい、

 

 だめな人間、だめな女、だめな・・皇帝なんだから」

 

急に元気になったその声を聴いて、おかしそうに彼は声を立ててわらうと、

 

彼女を見やって、納得したように言った。

 

「女・・か。たしかに、男ではまず、ここまでならんな」

 

「女・・? そ、そこなの?」

 

こたえつつ、視線を返すジェシカ。

 

二人には、洞窟内の気温が少し上昇しているように、おぼろげに感じられた。