ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・16 | 北風明理のブログ

ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・16

ムーンライトはワグナスの手の平を握り、抱きしめて言った。


「でも、ごめんね。また私の方で、話をしてしまうの・・」
 

「ああ。お前のあとでいい」
 

そっと押してこたえると、安心を促すようにささやいた。
 

ムーンライトは、後で必ず聞くから、と念を込めて、
 

彼の瞳を見つめた。
 

「私は、皇帝になる前に・・そう、思春期に入る前に、男の子から女の子になったの」
 

静かに、遠くをみるような目で、その視線をワグナスの
 

懐へと注ぐ。
 

ワグナスは無事に彼女が語り終えられるよう、その額へと手をやった。
 

微笑んで、感謝の言葉を告げるとつづけた。
 

「初めて脚本家を目指したのは、7さいの時。憧れた女性作家がいて、
 

 見様見まねでお話をかき始めたの。それから、うちゃえもんが家に来て、
 

 ぬいぐるみが増えていって、妹が人形劇をするようになって。
 

 私も、うちゃえもんの出てくるお話とか、かいたり・・
 

 でも、ある時から、人に役立つお話をかこうって、考えるようになったの」
 

彼の胸のなかで、目を伏せて言うムーンライトに、彼は、
 

どんな話だ? と尋ねた。
 

彼女は恥ずかしそうに明るくわらうと、
 

「最初は、全然話って呼べるものじゃなくて・・考えた事ばかり
 

 先行して、ほとんどまとまらなくて。考えることも、先入観とか、
 

 早呑みとか、本を読んでた割に、すごくおおくてね・・。
 

 何でこんなこと書いたんだろう、ってあとで後悔するくらい、
 

 はずかしがって・・でも少しづつ、色々分かってきたわ、そのころにね・・」
 

ききながら、じつはワグナスも国の革命を志したころ、
 

全く同じように思ったことが、よくあったのだと振り返り、
 

彼女に共感を覚えていた。彼は、自問自答のなかで、絶望し、迷走したりする
 

経験をして、そのつど乗り越えたり結論をつかんだりして、
 

認識を増やしたのである。彼女は、そうした経験を優しい言葉でとらえ、
 

解釈しているなと彼は思った。
 

「数字に興味を持つようになった時、数字には意味があるみたい、っておもって
 

 色々調べて、かんがえて、そうしたらそのうち、数字は一つの言葉にできる、って
 

 いう考えを、体系としてまとめられるようになって、最終的に
 

 足し合わせて10の倍数にするように数字の列を作ると、
 

 気力が増えることがわかったの、10桁までが正の気で、11桁以上が負の気で・・
 

 で、それから10桁までのをよく使ってて、正の気を増やしていたの」
 

それは、ワグナスも初めて聞く術だった。火術でも、土術でもない、
 

人の身体に作用する、とても自然な感じがした。
 

彼女は、息をつくと、穏やかな目をして言った。
 

「そうしたらね・・半年くらいたって、10さいの時に、体が女になりはじめたの」
 

ワグナスが、気力が増えたからなのか? と問いかけると、
 

ムーンライトは小さく、こくりとうなずいた。
 

「たぶん、使い過ぎたのもあると思うんだけど・・
 

 古い文献に、気力がふえた人間が、仙人になるって書かれてて、
 

 言い伝えでは性別が子供のものになるって、かいてあったんだけど、
 

 私はすぐ、性器が収縮してきて、腰の形が変化してきたわ。
 

 ゆっくり、だけど確実に、もう戻れなくなる、ってわかっても、
 

 小さいころから、女に生まれてれば、という気持ちは、止めようがなくなってて
 

 お腹に何かが根付いた、っておもったとき、それが子宮だって気づいた」
 

疲れたのか、あくびをして口を押える彼女に、そっと
 

その身体を抱きしめてやるワグナス。その身体は、彼女が自分で作った体なのだ、
 

と彼は思った。
 

「それでね、12さいになったころ、外側の性器がなくなったころ、
 

 女性化は止まって、いまみたいな体に、なったの。あとは、普通に女の子が
 

 成長するように、ゆっくり、大人の身体になっていって・・
 

 わたしはライトっていう名前だったんだけど、ムーンライトに名前を、
 

 付け足してかえたの。
 

 女王アリの事件があったのがその少し後で、それから半年くらいシーフギルドに
 

 お世話になって住み込みしてたから、キャットにだけ、
 

 そのことは打ち明けたの。だから、キャットだけ私の元の性別を知ってる」
 

そこまで言って、いまはあなたもだね、とささやき、
 

それから少しして、うつむいた。
 

額をなでてくるワグナスに、彼女は不安げな声で言った。
 

「やっぱり、軽蔑しますか・・?」
 

彼は、彼女の頭をかかえると、迷いのない声で言った。
 

「いや。私は、お前はどこか、ほかの女と違うな、と思っていたが、
 

 そのことが、理由が分かった気がしたよ。そんなお前だからこそ、私は・・」
 

気力が増えていたとはいえ、体の性別が変化して、作り替わっていったのだ。
 

本人の精神、肉体にかかる負担は、相当なものだったろう。
 

それを乗り越えて、女になることを望み続けたのだと、
 

そう思って返事をした彼に、彼女は幸せそうな顔をして笑った。
 

そうして、唐突に言った。
 

「結婚しよう。私たち」
 

彼の返事を待たずに、彼女は優しい声で言った。
 

「結婚しよう。そうすれば、この戦いもじきに終わるわ。
 

 七英雄と人間たちの、このたたかいは」
 

そういって、ワグナスの瞳を貫くように見つめた。