ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・15
「今日も、一緒に寝てくれるんでしょ?」
「あ、ああ・・」
そのまま夜になり、食事を食べ終えたムーンライトは、
ワグナスの方を向いて、にっこりと微笑んで言った。
結局彼女は、今朝言ったとおりに浴衣のままで過ごし、
そうして浴衣のまま、布団にぽてっと寝ころんだ。
この国では珍しい、ベッドではない地面に敷く布団は、
ムーンライトが皇帝になったときに、頼んで作ってもらったものらしい。
ワグナスが寝床に入ると、彼女はくすりと笑って、
頭の後ろの方を見やるといった。
「やっぱり、ポニーテールって、寝ると崩れてきちゃうね。
ほどいちゃおうかな・・」
そういうと枕に顔を横たえたままの姿勢で、リボンをほどこうとして、
うまくいかず、何度かした後、あきらめたのか息をついて手を離した。
「やっぱり、なれてないからかな・・」
ごまかすように笑うと、ワグナスの手を握った。
つられたように彼が笑ってみせると、その時、唐突に、彼女は声をあげた。
「どうした?」
彼女は心底驚いたように目を丸くすると、その理由を話した。
「やだ、・・わたし、ここにあなたを呼んだ理由を、ずっと忘れていたの」
そういえばそうだったな、と返事をして、
顔を真っ赤にして申し訳なさそうに表情を曇らせる、ムーンライトを見るワグナス。
落ち着くのを待つと、彼女は胸に手を当ててささやいた。
「私たち、あなたが、七英雄が人々に敵意を向けた理由を、聞きたかったのよね」
ワグナス自身は、昨日彼女とリボンを買いに行った際に、
この世界に生きる短命種の人間に敵意を持っていたのは、じつは
古の民に見捨てられた中での、やつあたりのようなものだったと
認識したばかりだったということもあって、
半ば曖昧になっていたのだが、ことの一部始終を彼女に話す必要は、あるだろうと
思っていた。ただ、彼女と過ごす時間があまりにも穏やかで心地よく、
楽しかったから、もう少しこのまま他愛もないようなことを話していたい、
と願っていた部分が、本心としてあった。
この少女は、いったいどんな幼少期を過ごして、
何を見て育ち、ここまで来たのだろう。
そんな、人間に対していだく興味が、彼の忘れていたものが、
ごく自然に、ムーンライトをみているとよみがえってくる気がした。
瞳の奥を見て、のぞき込むようにして、
優しく目を緩ませるムーンライト。彼女は、
横たわり、体を傾けたままの姿勢で言った。
「これから、あなたたちの、とてもおもい重要な話を、聞くことになる。
・・それなのに、わたしは、自分の中にある、隠していたかったこと、
話さなくてはいけないような、でも公には言えなかったことを、
ずっとあなたに、隠していたことがあるの」
「・・・?」
意を決したように、口元を結ぶと、ムーンライトは
小さな、でもどこか強さのある声で言った。
「あなたは、もしわたしが生まれつきの女の子じゃなくて、
男の子として生まれて、途中から女性になったって、知ったら、
あなたは、私を・・軽蔑する?」
彼は少し目を瞠ると、気遣うような声で言った。
「どういうことだ? 何かわけがありそうだな・・」
「うん・・えっとね」
彼の眼を見て、声を聴いて、少し安心したように微笑むと、
彼女は伸びをして、体を震わせていった。