アンサガの小説・ゴージュストーリー・10
「大体、そんな病人に防衛の指揮が務まると思っているのか。いいな、これよりこの
キムバーリーの守りはこの私が指揮を務める」
「しかし、こちらに来たばかりで、そのような・・」
「辺境騎士はおとなしくしていればよいのだ」
言うと、隊長らしき男はエデルの家を出て行ってしまった。
「エデル先輩・・」
「すまぬな。面倒をかけてしまうかもしれない。問題なのは、これからだ・・。」
気遣うようにいうキャッシュに対して、エデルは普段から閉じている両目を
更に伏せて言った。
キャッシュたちがこの町に着いてから、もう長いことこの町の守護隊長を務めてきた
キャッシュの先輩の辺境騎士・エデルの元を見舞いに訪れていたのだが、
程なくして騎士団の一人であるという男が現れ、エデルから城塞都市・キムバーリーの
防衛隊の指揮権を奪い取ってしまったのだった。
キャッシュは、
「どうしますか。エデル先輩・・」
「うむ。我々としては、陰ながら援護するしかないだろう。このところ、嫌な気配がこの町に
近づいてきている。故、魔物の襲来があるかもしれない」
エデルの言葉に、ノースたちはうなずいた。
「・・・・・・」
ゴージュはその後、エデルの家を出てすぐの場所で、壁に背をもたれさせていた。
ノースはパタパタと裾を畳み靴をはくと、ゴージュの所へと駆け寄った。
「ん・・?ああ、ノースか」
「どうかしましたか、ゴージュさん・・? 何処か具合の悪い所でも・・」
「ん、いや・・ああ、なんだ」
心配そうに顔を見上げてくるノースに、彼は大きく息をついて言った。
「考え事してただけだ、気にすんな」
ノ-スは、ゴージュの懐にしがみつくと、訴えるようにして言った。
「全然、そんな風に見えません。ぼくにも言えないことを我慢するように、隠しているなんて」
ゴージュは、不意にまどろむような目をしてノースをみた。
ノースの意志の強い、瞳ーーーといっても、マスクをかぶっているので、分からないのだが
その視線に、彼は頑なに守っていた何かを、突き動かされたような気がした。
やがて遠くを見つめると、やっと聞き取れるかという程の、つぶやくような声で、
「実はな、俺の生まれた村で、ダチが皆殺しにされたんだ。そこに遅れて助けにきた、
キャッシュについてきて今に至るんだ・・騎士団の連中に、あいつらは・・
さっきの男は、その時襲ってきたモンスターを連れてきた奴だったんだよ」
話してみると、遠い過去の話のようにも、つい昨日のことのようにも思える。
記憶というものは、時間を超えてよみがえることがあるのだ。
いや、彼は、失った友人たちのことを忘れたことは、無かった、一日も・・。
ノースは、ゴージュの腹のあたりに抱きつくと、細い声で言った。
「ゴージュさん・・そうだったんですか・・」
特に、意味のある言葉を言うでもなく、そうだったのか、とだけ、
言葉をくれたノースの、その配慮のようなものが、それが、ゴージュにはたまらなく
うれしかった。
照れたように吹き出すと、彼はばつが悪そうに言った。
「悪ぃな。こんな事、お前に言うつもりじゃなかったのによ」
ノースはぶんぶんと顔を、マスクがずれそうになるくらい、横に勢いよく振ると、
それから、ゴージュの懐に息を吹き込むようにしてささやいた。
「やめてください、そんなことを言うのは。ぼくはゴージュさんの話、聞きたいです。むしろ、
何でも言ってください」
そう言ってノ-スが微笑んだのが、彼には解った。
ノースは何時でも優しかったな、とゴージュは思う。
そして、そんなノースの優しさを守りたい、と彼は強く願うのだ。