ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・9 | 北風明理のブログ

ロマサガ2の小説・最終皇帝の女の子・9

(大変だったのだな・・)


ワグナスは自分の懐で微笑みながら、息をつくようにまどろむ彼女を見ていた。
 

今も悪口は聞こえているのだろうか、少し話し疲れたように
 

頬をうずめかけて、満足そうな顔をする。
 

しばらく経って、ムーンライトはおもむろに顔を上げると、
 

穏やかな目をして言った。
 

「一人芝居はね、子供のころ脚本家を目指してた頃からの、習慣で、
 

 一人で全部の登場人物をするの。でも、たいてい出てくるのは二人で・・
 

 布団を抱っこして、眠くなるまでするんだ。旅に出てからも、
 

 野宿をする時によく、しててキャットとかもう、あきれてみてたんだよ、
 

 私は、みんなが真似すればいいなって思ってたんだけど・・まだ私しかしてなくて。
 

 すごく自分の気持ちとか、素直に見つめられるのになあ・・」
 

「子供になりきる、チャイルドプレイみたいにか?」
 

ムーンライトは勢い良くうなずくと、彼の胸に顎をぶつけてうつむいた。
 

それでもめげずに、笑顔をワグナスに向ける。
 

「そう、そんな感じは、あるわ・・。
 

 あとね、話のなかで、泣いたり、はずかしがったりすると
 

 すごく気持ちよくって、ストレス解消にもいいんだよ。
 

 そもそも、布団を抱きしめるってだけでも浄化作用があるの。
 

 よかったら、あなたもやってみて。ひそひそ声でもいいのよ」
 

ムーンライトが確信を持って楽しそうに言うので、
 

何だか断るに断り切れない雰囲気になり、彼は返事にためらいを覚えたが、
 

やがて、なだめるような声で言った。
 

「いや、やめておくよ・・」
 

そう? と笑いながら言うと、彼女はふたたび顔をうずめて、
 

ワグナスの胸に吐息をかけ、柔らかく弾ませた。
 

そして、心の底から満足そうな顔を浮かべて言った。
 

「今日は、ありがとう。何だか、ずっと胸につかえ続けてたものが、
 

 とれてしまったわ。たくさん・・今日は、今までで一番幸せに眠れそう。
 

 貴方って、とても優しい人だったんだね。こんな話を、文句も言わずに聞いてくれたもの・・」
 

言われて、ワグナスは意外、というよりも愕然としてしまった。
 

そんな言葉は、身内の魔族からも、七英雄同士でも、言われたことはない。
 

古の民の官僚にも、彼は冷静な人物として評価されていた。
 

自分でも、仲間を気遣うことはするが、それ以上に現実への厳しさを
 

第一に考えている部分があった。
 

だが、言われてみると、ずっと心を、いつしか隠していたのかも知れない、と
 

彼は思い、彼女の心に触れた温もりを、愛しいと思う心を実感していた事に気付いていた。
 

 この子は、それを私よりも早く探り当ててしまったんだな。
 

何となくだが、戦もしないこの少女を最終皇帝に選んだ
 

先人たちの気持ちが、彼には解る気がした。
 

それから明け方まで、眠りゆく彼女をワグナスは、ずっと抱きしめ続けていたのだった。