新宿駅の東口から街に出た。Iphoneで住所を調べながら目的の人物のいるビルを目指した。お昼過ぎだったが自分のような制服を着ている者はいなかった。彼は自分が十分に落ち着いていると思っていたが体が小刻みに震えていた。自分のように神経の弱い人間が行う行為とは思えなかった。だが自然に体が目的地へ近づいていくのだった。彼には責任という概念がはっきりと発達していたとは言い難い。自分の成し遂げようとする行為が、自分の責任による取り返しのつかない犯罪だとは思えなかった。逃げ通してやる。犯罪は明るみに出なければなかったと同じなのだと思っていた。それに自分の場合は大義があると信じていた。それに自分が捕まるようなヘマをするとは世にも思えなかった。

 

 

 

 

 

新宿の雑居ビルにある探偵事務所だった。眼鏡をかけた真面目そうな内田という探偵が応じた。

「それでその人の素性を調べてどうするの」

 内田は目の前のソファに座っている中学生を相手に喋り出した。

「はい、だからおばあちゃんを跳ねたおじいさんってどういう人かなって知りたいのです」

「用件は簡単だよ、住所を調べて写真を取ればいいんだろう。おばあちゃんの事故の資料も残っている。そしてこれからの予定が何かあるかどうかだろ」

中学生が仕事を頼みに来るのは内田にも初めての経験だった。探偵は誰でも開業できる、そして犯罪に関係すること以外は全てやる何でも屋だった。

「だけどねぇ、子供を顧客としてなんか問題が起こると失職しちゃうからな。大体は受けないんだけど、うちは違うんだ。だけど仕事が終わったら一切関係ないからな」

「分かっています。お願いします」

「うちはお金を貰えば大体のことはやるんだ。手付金5万円用意してきたか」

「はい、ここにあります」

 彼はカバンから封筒に入った5万円を出した。彼には厚みを感じた。取り返しがつかない、でももう動き始めたんだ。

 十日ほどで連絡が来た。住所、写真、そして何よりも絶好の機会があることがわかった。同窓会だって笑っちゃう。最後の顔合わせだな。