こういうものを観てしまうと、何かを創作しようと思っている人々は活力を貰えるか、もしくは打ちのめされてしまうかもしれない。
凡人が辿り着けない境地がここにある。
アイドルが落ちていく恐怖の数日間を描く、実に鮮烈なマスターピースだ。
(C)1997MADHOUSE
アイドルが女優を目指す悪夢ストーリー
あらすじは、芸能界だ。
アイドル未麻(みま)が女優に転身する。
ドラマ撮影の現場は過酷だ。
無茶な要求にたじろいだり、何者かの嫌がらせに怯えたり。
ストーカーの影が見え隠れするうち、やがて、惨劇が巻き起こる。
リアルと虚像が入り混じる展開である。
どこまでが夢で、妄想で、真実なのか判然としなくなる。
人間というものは、自分の周りで何が起こっているのか分からなくなることが、いちばん怖い。
未麻の中で、外で、何が進んでいるのか。
ミステリーに翻弄されていると、怖美しい光景が待ち受ける。
その興奮は公開から25年(!)経った今でも色褪せない。
褪せない、どころか、である。
この秋、本作は全国で4Kリマスター上映された。
ますます輝いて見えたのは4K効果はもちろん、作品の持つ底力ゆえだろう。
恐怖に震える未麻の表情といったら!
戸惑いからの疾走、その流麗さといったら!
嫉妬と欲望を美麗な動画で縁取って観客を虜にする、まるで魔物である。
今敏監督とスタッフと声優キャスト
(C)1997MADHOUSE
今敏監督が46歳で亡くなってから今年で13年が経つ。人間の持つドロドロを鮮やかに描き出す天才。個人的に神様だと思っているクリエイターの筆頭だ。サイコホラーアニメ部門はここから始まったと言っていい。
当初はビデオ作品として制作された本作の衝撃は世界も駆け巡り、米国アカデミー賞5部門ノミネートの『ブラック・スワン』(2010)の元ネタにもなった。今敏監督ファンのダーレン・アロノフスキー監督は本作をパク……違った、インスパイアされたという。なお、主演のナタリー・ポートマンはアカデミー賞主演女優賞を獲得した。
(C)1997MADHOUSE
未麻役の岩男潤子は可憐と必死さの両極を表現。
マネージャー役がポケモンのサトシこと松本梨香だったことを忘れていた! 上手くて唸る。
社長役の辻親八の渋さよ。
(C)1997MADHOUSE
最近では、優しい怪談おじさんでお馴染みの竹内義和による『パーフェクト・ブルー 完全変態』が原作。日活ロマン映画風の副題にドキドキする。映画と原作との違いは、ストーリーの根幹に関わる部分で大きく異なっている。(ネタバレ厳禁部分)
キャラクター原案は女の子を描かせたら筆頭の江口寿史先生。
竹内義和から持ち掛けられた映画化の企画を広げたのは大友克洋という、豪華さ。
音楽も音響も素晴らしく、怒涛の迫力であった。
リアル芸能界の光と闇は鮮烈
実写映画では最近なかなか観られないような「体を張った」シーンの数々。
こんなにも現実的だったかと放心してしまった。
長い間、TV画面で鑑賞してきた作品である。
その時点で夢中になっていたのに、だ。
私ごとで恐縮ながら、本作を初めて観た頃にはアイドル業界がよくわからなかった。
だが、今は違う。
アイドル私立恵比寿中学にハマって9年。
本作に登場するライブ現場の生々しさがよくわかる。
オタクをやっていてよかった。
華やかなライトは夢と希望を照らし出す。
その渦中で起こる悪夢に、気持ち悪い……と嫌悪感だけを抱いていられるうちはまだ若い。のかもしれない。
自分が年を取ってみると見えてくることがある。(中年自慢)
この映画に溢れる、嫉妬や野心。
そういったものが身につまされる。
当方、実は病み上がりで劇場に向かい、頭がクラクラしたのですけれど。
元気もりもりで自宅鑑賞しても、クラックラする珠玉のサスペンスホラー。
そんな傑作を初めてスクリーン鑑賞できたこと。
都心はチケット売り切れ続出だったと聞きますが、全国51館の4Kリマスター上映という事業、本当にありがたい。
上映の無かった地域でも今後、何らかの機会があればと切に願う。
もっとも、TVサイズでご覧になっても十二分に素晴らしいのです。
何度も観ていきたい、受け継いでいきたい。
まごうことなき、芸術遺産。
※今敏監督作品の感想です
1998年製作/81分/R15+/日本
配給:レックスエンタテインメント
劇場公開日:1998年2月28日
監督:今敏/原作:竹内義和/脚本:村井さだゆき/演出:松尾衡/制作プロデューサー:丸山正雄、井上博明/製作総指揮:鷲谷健/企画協力:大友克洋/キャラクターデザイン:浜洲英喜、今敏/キャラクター原案:江口寿史/作画監督:浜洲英喜/撮影監督:白井久男/美術監督:池信孝/編集:尾形治敏/音楽:幾見雅博/音響監督:三間雅文/制作:マッドハウス/声優出演:岩男潤子、松本梨香、辻親八、大倉正章、秋元羊介、塩谷翼、堀秀行、篠原恵美、江原正士、梁田清之、古澤徹、新山志保、古川恵美子
※読んでいただいてありがとうございます。情報に誤りがありましたらご一報いただけたら幸いです。
4Kリマスター上映/初見時はビデオ鑑賞
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