おはようございます。

 

2015年の芥川賞作品の「スクラップ・アンド・ビルド」を読んで現役理学療法士が感じたことを書いていきます。

 

今回は、「高齢者の心理」について書いていきます。

 

本の中でも、「なんで祖父はこんなこと言うのだろう」「この行動の意味はなんだろう」と主人公の健二と同じ年代の読者の方は感じたかもしれません。

 

“祖父”に限らず、高齢者というのは特徴的な心理症状が出やすいといわれています。

 

しかし、それは個人差が大きく、”祖父”のような気持ちは理解できない高齢者ももちろんいらっしゃいますので、ご理解いただいた上で、読み進めていただけたらと思います。

 

高齢者は、論理的な考えよりも、「印象」や「直感」によって判断することが多くなってきます(厚生労働省:資料8-1 高齢者のうつについて)。


例えば、「この方法が一番理にかなっているし、いろんな人に聞いても同じ方法を選ぶ、しっかりとした裏付けもある」と説明しても、本人の中での今までの経験や印象だけで「それは良いが、これは良くない」と決めつけてしまったりして、高齢者の方が理解していただけないといった経験をされたことはないでしょうか。

 

僕は、理学療法士という病気や怪我の方に対してリハビリテーションに携わる仕事をしていると、何度かこの壁にぶち当たった経験があります。

 

例えば、こんなエピソードがあります。

 

自宅の中で転倒し骨折された高齢者の方がいます。

 

病院での治療にて回復し、今までの自宅での生活に戻ることを目指しているとします。

 

退院直前に、ご家族の目からも、ほぼ転倒前と変わらないくらいの身体の状態です。

 

「先生、転ぶ前と同じくらい元気になったので大丈夫です!」、、、非常に危険だと感じます。

 

なぜなら、転倒した原因を、本人がしっかりと理解できているかが問題となるからです。

 

自宅内の環境が原因で何かにつまずいたのか、生活習慣の活動量が低く身体機能が落ちたから転んだのか、他に原因の病気があるため転んでしまいそのため薬を飲む必要があるのか。

 

いずれにせよ、転倒前と同じ身体能力、同じ生活習慣や環境では、同じことを繰り返します。

 

再発しないために、今までの生活を少しでも変える必要があるのです

 

その生活習慣や環境を”少し変える”ということに難しさを感じています。

 

それを実現するためには、前半でも書いた通り、転倒に関するデータを並べたり医学的に理由を伝えても、理解していただけなかったり、そのままの生活を再び送ってしまい再発してしまう患者をみてきました。

 

高齢者には、身体で「この運動はやると身体に良さそう!」と実感したり、この棚の位置を変えてみたら「空間ができて動きやすい!」と実感するなど、考えて理解させるのではなくて、直感的に理解していただく方が、習慣が変わりやすいと感じています。

 

「この運動をしばらく続ければいつかは効果があるよ」をどれだけの高齢者が根気強く続けられるでしょうか。

 

それよりもその場で、実感させてあげられること、それを積み重ねれば生活が変わるのではないかということを実感させる必要があります。

 

高齢者の心理をよく理解して関われる人が、今後、高齢者が増加する日本には必要となってくるのではないかと感じていています。

 

長文お読みいただきありがとうございました。

 

次回は、最後のテーマ「尊厳死」について書いていきます。