一昨年、『香水』という曲が流行ったけれど、鬼にとって香水に因んだ曲と言えば、百恵ちゃんの『ミス・ディオール』なんだよね。

愛し過ぎているが故に、敢えて距離を置いてみたりなんかした後で久し振りに聴いてみると、やっぱり凄いやと何度だって思う。大袈裟でも何でもなく、震える。

デビュー当時、歌手としてあまり期待されていなかった百恵ちゃん。二枚目のシングル『青い果実』では、歌詞の内容がセンセーショナルだと話題になったが、あの時点ではまだ曲に百恵ちゃんの方が背伸びさせられていた感があった。それがドラマや映画などで演技の場数を踏むにつれ、歌詞の中に登場する「女性」を演じる=生きるという能力が飛躍的に伸びていった。眠っていた歌姫、その才の芽生えだ。そして一つ、大きく花開くきっかけとなったのは、宇崎竜童・阿木燿子との出会いだろう。ここから百恵ちゃんと曲とが高いレベルでシンクロするようになる。コンビを組んで最初のシングル『横須賀ストーリー』がエポックメイキング的な一曲になったことは今更語るまでもない。

百恵ちゃんが、歌姫序章とも言うべき17歳から18歳になるまでに発表した楽曲、それこそ『横須賀ストーリー』や『秋桜』は取り上げられる機会が多く、他の歌手が披露している場面もよく目にする一方で、秀作揃いのアルバム曲にはなかなかスポットライトが当たらない現実を鬼は非常に残念に思っている。冒頭で挙げた『ミス・ディオール』然り、何度か書いたことがあるが『木洩れ日』なんて17歳になって間もない女の子がどうしてこの世界観を自分の物にしてしまえるのだろうと心底感嘆を覚える。一番、二番ともにAメロだけでノックアウトされてしまう。それだけ詞も曲も歌い手も完璧なのだ。

ポップス、ロック、演歌、ジャズ、シャンソン……音楽には様々なジャンルがあるけれど「山口百恵」もその中の一つだと思う。たからこそ歌謡曲畑以外のアーティストが提供した楽曲にも応えることが出来た。アルバム『GOLDEN FLIGHT』にはその手の曲が詰まっている。まだ聴いたことがないという人は、是非一度耳を傾けて頂きたい。

余談だが、百恵ちゃんが引退する年に出した『ロックンロール・ウィドウ』。こちらもかなりの人気曲で、散々カバーもされてきたが、他の女性歌手が歌うと決まって(しかもやたらと)巻き舌なんだよね。多分ドスを効かせようとしてそういう歌い方になっているのだろうけど、正直「上っ面のドス」に聴こえてしまう。ハット帽被ってサングラスを掛けたら誰でもコルレオーネファミリー、とはいかないように、あれでは曲の本質に迫るには程遠い。そこへいくと、本家の百恵ちゃんは全然巻き舌じゃない。ロックンロール・ウィドウを演じきってのあのドス、あの迫力なのだ。そりゃあ四十年以上経ってもカッコイイと支持されるはずだよね。