「〝センター〟と〝エース〟、そして〝看板〟は必ずしも一致しない」

これは昨今のアイドルグループについて言えることである。昨日乃木坂46を卒業した白石さん家の麻衣ちゃんを例にとって書き垂れてみるとしよう。

 

アイドルのファッション雑誌専属モデル化の先駆けとなり、女子大生のなりたい顔ランキングでは堂々一位に選ばれ、写真集を出せば21世紀最大のヒットを飛ばす彼女。グループ自体の知名度が低い頃から「白石麻衣なら知ってる」という声は世間に少なくなかった。「白石麻衣きっかけで乃木坂を好きになった」との話もよく耳にする。乃木坂46の看板と言えば白石麻衣、彼女の存在そのものが乃木坂46と言っても過言ではない。

 

そんな彼女がこれまで参加したシングルの表題25曲の内何曲でセンターを務めたか。調べてみると、全部で五曲。単独センターに限定するなら、僅か三曲に過ぎない。これは先にグループを卒業した西野さん家の七瀬ちゃん(七曲[内、単独五曲])や生駒さん家の里奈ちゃん(六曲)と比べても少ない数字だ。

 

では、センター経験数が少ないから白石が西野、生駒よりもアイドルグループのメンバーとして欠けている部分や劣っている部分があるのかというと決してそんなことはない。寧ろ、結成時の完成度に限って言えば、彼女は他のどのメンバーよりも頭一つ二つ抜けていた。ひと昔前までのアイドルグループ通りの構成にするなら、間違いなく彼女はデビュー曲からずっと「不動」のセンターだっただろう。

 

しかし、実際デビュー曲~五曲目までセンターを務めたのは生駒である。完成度では白石に遠く及ばなかった生駒がなぜグループの基礎を固めていく上で重要な初期のセンターに抜擢されたのか。これは生駒自身が持っている〝強み〟ではなく〝弱み〟が、乃木坂46というグループが歩んでいく物語の主人公に適していると判断されたからに他ならない。

 

漫画やアニメに登場する主人公を思い浮かべてみてほしい。非の打ち所がない完全無欠のキャラクターというのは案外少なくて、皆どこかしら抜けていたり、欠点があったりする。敢えてそういう設定にすることで観る側に共感を与え、物語そのものを面白くしているのだ。

 

これまでにも鬼が何度となく語ってきた競馬やプロレスがそうであるように、現代のアイドルグループが成功するには、ただ可愛い子を集めて束売りするだけの「点」の商法では駄目で、如何に面白い物語を見せ続けられるかという「線」の商法がカギとなってくる。

 

デビュー曲から五作連続センターの生駒、最多センターの西野と白石の違いは、偏にこの主人公=センター気質の差にあると思う。センターを務めることで上昇するステータスの幅というか、白石が10上がるところを前の二人は20、30上がるみたいな。個々人のステータス上昇はそのままグループ全体のステータス上昇に繋がるのだから、どちらをセンターに据えるべきかは自ずと答えが出る。

 

生駒、西野の方がセンターに向いている。言い換えれば、白石はセンターじゃなくても充分輝けるということ。脇のポジションだろうが、一つ後ろのポジションだろうが、常に高いステータスを維持できる。センター効果による上昇幅が二人よりも小さいのは、元々ステータスが高いせいでもある。つまり、こと乃木坂46に関して、彼女が必ずしもセンターである必要がなかったのである。

 

対照的なグループに、先日櫻坂に改名した欅坂46がある。こちらはデビューから八作目まで、一貫して平手さん家の友梨奈ちゃんがセンターを務めてきた。彼女が欅坂のセンターであり、絶対的エースであり、大看板であった。この俗に言う「一強」体制には批判も向けられた。「乃木坂〝のように〟他のメンバーにもセンターを任せればよかったのに」とか「だから崩壊してしまったんだ」とか。全く浅い批判だと思う。清純路線の乃木坂〝とは違った〟プロテスト路線を選んだからこそハネた(そもそも乃木坂だってAKBとの違いをウリにし、そのAKBもまた過去のアイドルグループとの違いをウリにして世間に打って出た。先人が手本であり、また別路線を歩むための起点なのだ)のだし、その路線に沿った物語の主人公を演じきれるのは良くも悪くも平手しかいなかったのである。

「他のメンバーにも~」と批判する人間は、お遊戯会でシンデレラが10人いたり、運動会で順位をつけなかったりする時代を生きてきたのではないかと疑ってしまう。「だから崩壊~」太く、短く、上等じゃないか。それなりに売れながら延命するより余程潔くて、華々しい。

 

必ずしもセンターである必要がなかったお陰というべきか、白石は彼女自身のイメージやブランドをすり減らすことなく、実に九年もの長きに渡りアイドルを続けて来られた。エースの座はうまく引き継がれているし、センター候補も育っている。看板を下ろすにはまさに今が頃合いだったのだろう。

歌って、踊って、演じて、バラエティもやればモデルもやる。現代アイドルの完成型とも言える彼女が、次のステージでどんな輝きを見せるのか。グループアイドル出身者は何かと苦戦しがちだけれど、ここに至るまでにも新しい道を切り開いてきた彼女なら大いに善戦してくれるのではないかと期待している。芸能界という名の大海原で、パドリング、パドリング、オーイェイ!テイクオフ!だ。