「作りすぎ」が日本の農業をダメにする/川島 博之

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第一章 食料危機は訪れない
第二章 食料は過剰生産されている
第三章 過剰生産が農業問題を引き起こす
第四章 地方を重要視した日本の農業
第五章 競争力がない日本の農業
第六章 これからの日本農業を考える
「長い年月にわたり、穀物の単収がほとんど増えなかったことは、人類の潜在意識に深く刻まれることになりました。その潜在意識とは、領土に強いこだわりを持つことです。」
現代の農業の実態を把握するための前提として、歴史的な人類の潜在意識を述べています。
単収が増えないということは、増産するためには面積を広げなければいけないということ。
面積が限られている以上、それは奪い合いを意味し、人口を維持するためには領土を維持する必要がある。
「1950年頃から単収が急増」
「穀物単収は人類が農耕を始めてからずっと1トン/ha程度でした。~中略~。その単収が1950年頃ごろに1.5トン/haであったものが、21世紀には8トン/haになったのです。たった50年間で6倍になりました」
これは、科学技術の発達により、窒素を供給することが可能になったから。
人口の増加ペースを圧倒的に上回るペースで単収があがることにより、穀物が余ることになります。
「ハーバー・ボッシュ法」
空中窒素を固定することにより、アンモニアを作り、それを酸化させて硝酸とし、それから硝酸カリウム(硝石)を製造する方法のことらしい。
そもそも窒素肥料は硝石をもとに作られていたが、この方法によりエネルギーさえあればいくらでも窒素を作ることが可能になったとのこと。
ちなみに、ハーバーとボッシュの二人の科学者はノーベル化学賞を受賞している。
「牛肉の飼料は10kg、鶏肉の飼料は2kg」
食肉需要が増えると飼料需要が爆発的に増加して、世界が食料不足に陥るという主張があるが、データからみるとそれほどの飼料需要は増加していない。
その理由は、牛肉の消費がそれほど増えなかったから。
必要な飼料の違いは、
前に書評を記載した書籍にも記載があります。
「小麦は多くの水を必要としない」
「水不足により食料が生産できなくなるとした話は、水田を見慣れた日本人が抱きやすい杞憂」
コメを栽培するには多くの水が必要だが、小麦は雨水を利用して栽培し、灌漑は必要ない。
世界の穀物需要の多くは小麦、トウモロコシであり、その双方はそれほどの水を必要としていない。
「1972年のインドの合計特殊出生率は5.35。2006年には2.80」
「インドネシアも1969年の合計特殊出生率は5.61。2006年には2.59」
「タイにおける低下はもっとドラマチックです。1969年には6.11だった出生率が、2005年には1.89」
著者は人口爆発が起きないと主張しており、その根拠数字があがっています。
マスコミが「人口爆発で食料が危ない」等の主張をして、それに流されがちですが、具体的なデータを押さえておくと落ち着いた反応ができるのかもしれません。
「GDPの伸びからすると食料価格は安い」
「1日に必要なカロリーは小麦30円分」
食料価格の安さをデータから示しています。
冷静な議論のために客観的なデータを押さえるのは必須ですね。
「全人口に占める農民の割合は世界でも1~3%程度」
日本の農民人口割合が3%程度であるのに対しアメリカやイギリスは1%程度、フランスも2%程度。
農業の担い手不足の議論は、的外れかもしれません。
「食料の貿易は余った食料の押し付け合い」
TPPなどの貿易交渉において農業が問題になる理由は、食料が過剰生産になっているということを前提にするとすっきりと理解できる。
足りない国は基本的にないから問題だということのよう。
「食料不足と栄養不足は違う」
「国連の下部機関であるFAOが世界には10億人の栄養不足人口がいると言っている」
食料が過剰生産で余っていると聞くと、世界には食料不足で苦しんでいる人々がいるではないかという主張が出てきます。
著者はこれに対しても反論を示しています。
十分な食料をとれない地域は南アジア及びサハラ以南のアフリカであるとされるが、双方はともに人口の急増地帯である。食料不足では人口は増えないはずでないか、と。
「同情するなら小麦を買え」
貧しいという国に食料を送って、送った側は満足したとしても、もらった側は食料は持っている。
むしろ食料価格が安いから苦しんでいるのだから、食料を買ってもらいたいと思っている。
「日本では、配給システムが機能したために、政治家、高級官僚、ジャーナリスト、大学教授などといった社会的に影響力のある人々を多く輩出している中流層も、貧しい人々ともに飢えていました」
「インドでは食料危機は度々発生していますが、インドの知識人は食料危機をそれほど心配していません。それは食料危機になっても、知識人が飢えることがないからでしょう。多くの途上国では、食料危機は貧しい人々の問題です。世界でほとんど話題にならない食料危機が、日本で大きな話題になることは、このような事情も関係していると思っています。」
「穀物の栽培面積は中国が8900万ha、米国が5800万ha、フランスが900万ha、日本が200万ha」
「農民一人当たりの穀物生産量を計算すると、米国が78.1トン、フランスが52.8トン、日本が4.0トン、中国が0.6トン」
日本の穀物生産が米国、フランスにかなわない理由が数字としてあらわれています。
「日本農業は「省力化」を目指せ」
日本農業の発展のためには省力化が必要であり、農民人口は一層減少せざるを得ない。
農業人口の増加と農業の発展は相反しているんですね。
ちょっと長々と書きすぎました。
まだまだピックアップしたい部分は多いのですが、このへんで。
興味がある方はぜひ手に取って読んでいただければと思います。
「食料危機!」のような記事が雑誌、新聞等でも横行していますが、食料は世界で余っているという真逆の視点を提供してくれる書籍です。
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