俺は今、テーブルの上に乗せた真っ赤な林檎をもてあましている。
子供のころから不器用で、林檎なんて切ったことがない。こうなることは、買う前からわかっていたのだが、仕事から帰る途中、バイクで秋 風を感じながら見た果物屋の林檎は俺の心のどこかを引っ張った。
子供のころは、よく、母が林檎を買ってきた。慣れた手つきで、真っ赤な皮をむいた後、八つに切っていくのだが、俺はそのときのシャリ シャリという音が嫌いだった。八つの林檎を3人で分けるのは無理があった。俺が出来上がった林檎を順に分けていくと、弟は、残りを自分が食べると言い 出した。俺はそんな弟が憎かった。
陸上部の俺と違って、弟は足が遅かった。科学部なんかに入っていたからに違いない。野球部の連中はいつも、弟が空気を読めないことをネタにして盛り上がっていた。