第1章
本日より俺、橋本 ( はしもと )柊人 ( しゅうと )はめでたく高校生になった。
登下校も、自転車から電車に変わり、だいぶ楽になる。それに、電車にはよっぽどのことがない限りは乗り遅れない。と、いうのは、実は我が家は駅なのだ。
別に、ホームレスでも何でもない。ただ、駅と家が合体している、例えるなら駐在所みたいなところであり、両親はそろって鉄道の仕事だ。
「さてと」
一息ついたところで丁度よく電車が入ってきた。
各駅停車、高松行き。二両の短い編成に乗り込んだ。
わずか十分ほどの移動である。距離にして6㎞ほどではあるが、二級河川を二つも渡らなければいけないので、自転車だと少々きつい。
程なくして、列車は減速しだした。もうすぐ終点の高松だ。
右横からは、徳島方面に向かう高徳 ( こうとく )線 ( せん )が合流してきた。待避線を含めて、五本の線路はさながら大阪や東京などの大都市のようだ。
そんなことを考えていると横からも列車がやってきて俺が乗っている列車と併走だした。マニアの情報によると、四国での併走は珍しいらしい。
ふとその列車を見ると、こちらと同じく二両編成だが乗車人数は向こうの方が上だった。 ものすごい人口密度でガタゴト走っている。車両は昭和五十年代製のキハ47なので足取りが危なっかしく見える。しかも空調は効きすぎてしまうので、中の人たちは暑そうだ。自分があっちの列車だったらと考えると、とても乗る気にはなれない。
そんな列車の窓際に、俺と同じ制服を着た子を見つけた。友達作りの第一歩と思ったが、残念ながらそれはブレザー。つまりは女子だったので、自分の中で断念した。しかし、その制服は上品さを醸し出す清楚なもので、つい見入ってしまう(のは俺だけか?)。
と、その子がこちらに気づいた。そして、何か言いかけた。それは最初、俺に言っているとは思わなかったが、よくよく見ていると、紛れもなく俺に向かって言っている。しかし、当然のことながら聞こえるはずがない。向こうもそのことを悟ったのか、ジェスチャーをしようとしてきた。だがしかし、列車がホームに滑り込んでしまい、停まっていた列車に視界を阻まれて何を言っているのかわからなかった。
俺はほんとに、こういう時の運はゼロに等しいのだ。折角のチャンスなのに。
改札でその子に会おうとしたが、さっきの列車にはその子以外にもどっさりと同じ学校の人が乗っていたため、これ以上の捜索は困難だ。あきらめて学校に向かおう。
香東 (こうとう)高校。俺が今日から通う高校だ。県内ではもっと賢いT校やI校、M校に次ぐ頭の良さらしい。ただ、本心でこの高校に行きたかったわけではなかった。親が強制的にきめたもので、その理由というのが「バイトできる」ことと、「駅から近い」ことであった。よく考えると、ほかの学校でも高校生になったのでバイトはできるのに・・・。
まぁ、そんなところだ(雑だな、おい!)。
朝、家を出るときにも親に「あんた、もう、今日からバイトできるね!」なんてことを言われた。
そんなに働いてほしいのか!
さて、始まりました入学式。
まぁ暇で暇で仕方がない。というのは、来賓の話や校長の話。校歌斉唱なんて、知らないから歌えない。ただ立っているだけ。これがまたつかれる。
しかし、一つだけおどろいたものがあった。それは、生徒会長の話なのだが、その会長にびっくりした。
(朝の子だ!)
恐るべき偶然だ!なんということであろうか!朝の子は生徒会長だったのか!
そんなことに驚くうちに、会長の言葉は終わってしまった。
入学式が終わり、自分のクラスを確認しに行く。
「えーっと、俺のクラスは・・・」
ない。
「二組は?」
ない。
「三組なのか?」
やはりない。
残るは四組と五組だが、それにもない。
これは一体どうしたことか?
とりあえず先生に聞いてみよう。
「先生、俺の名前ないんですけど?」
「おまえ、名前なんや?」
「橋本柊人ですけど」
先生は少し沈黙した後、一組のクラス表の下の方に何かをしだした。
「先生、何してるんですか?」
「ん?少し待ってろ」
待つこと数秒。
「よーし、できた!」
「先生、何にも変わってませんけど?」
「下の方をよーく見てみろ!」
クラス表の下のほう。
そこのは、鉛筆で薄く「ハシモトシュウト」とかいてあった。
こうして、俺は一年一組になっ(てしまっ)た。
「一年一組」という響きは、小学校を思い出させる、なんだか幼稚なイメージである。
そんな一年一組は、どこにでもあるありふれたクラスだった。
しかし、顔見知りがいない。
誰しも一度は経験したと思うが、知ってるやつが一人もいないのだ。
友達のうち何人かはこの学校に進学しているものの、どうやらみんな別のクラスのようだ。
と、一人だけ見つけることができた。
しかし、よりによって女子である。ゆえに話しかけづらい訳で・・・。
その女子というのは、「成績優秀・スポーツ万能・美人」というものすごい三拍子がそろってしまったやつであり、親によると、御近所関係であるがゆえに幼馴染みで、小・中・高と一緒なうえに、生まれた病院まで一緒らしい。まぁ、俺の方が一日早いのだが。
そのせいか、実の兄のように慕ってくるわけである。
そいつの名は柏木 ( かしわぎ )茜 ( あかね )。肩書きはロングヘアーの天才美少女(?)だ。
「あ、柊人。一緒のクラスだったんだ!」
にこにこと笑顔で手を振ってくる。この笑顔がイイ!
が、幼馴染みとのひとときは一瞬にして破壊された。
「よぉーおまえら!席につけぇー!」
教室に入ってきたのは紛れもなく、勝手に一組に俺を放り込んだ張本人だ。
そして、その先生は教卓につくなりこう言い放った。
「本日よりこの一年壱組の組長。一之宮 ( いちのみや )豪 ( ごう )三郎 ( さぶろう )だ!」
教室にいたほとんどの人が唖然とした。
(組長?担任じゃなくて?)
(壱組って?一だろ)
そんな疑問が頭をよぎる。
ふと詩音の方を見ると、彼女もまた、不思議そうに首をかしげている。
だが、ひとりだけ、それが当然のことであるような顔をしている生徒がいた。
ちょうど詩音の後ろの子だ。つまりは女子。しかし、そこにはどこか不思議なオーラが発せられており、茜も居づらそうだ。
長々とした(自称)組長のHRが終わり、席替えとなった。
しかも、自由席。
男女の列は決まっているものの、規制はそれだけであった。
そんな席替えで各自、思い思いの席についていくなかで、ひときわ異彩を放つ空間があった。
そこは、一人の女子を中心に、空席が円を描くようにぽっかりと空いている。
その女子とは、さっき、組長の発言を無表情で聞いていた子だ。
長い髪をくくり、腰には刀(日本刀!?)があり、なんだかオソロシイオーラを出している。
この席は避けたいのだが、こんなことを考えているうちに、ほとんど席が埋まっていて、隣にいる詩音にヘルプを求めたが、難しい顔をするだけだ。
「お、べっぴんさんの横みっけ。」
レットゾーンの席に座っていったのは、確か森谷 ( もりや )雅也 ( まさや )とかいうやつだ。
まぁ、どこにでもいるような健全(すぎる)な男子高校生だ。
「あ、その席はやめといたほうが・・・」
「空いてるんだからいいだろ♪」
忠告は無視だ。どんなことが起きるかは想像がつくのに・・・。
「やっ!俺、もり―――」
そういいながらあの女の子の肩に手を置いた、と、ほぼ同時に腰の刀が空をきった。
「私に触るなぁぁぁぁ!!」
俺はとっさに森谷の制服の襟をつかみ、後ろへ引っ張る。
刹那、彼女の両端の机が真っ二つに切れた。
これは本物らしい。いやぁ、油断しているとマジでしぬぞ、森谷よ。
しかし、可愛そうである。触っただけでこのざまとは。
彼女はさらに斬りかかってくる。
このままよけても勝てない。
とっさにシャーペンを二本投げて狙撃するが、一刀両断される。
先生を見るが、自分でやれという顔をしている。
この無責任教師めが!
俺と森谷の現ポジションは教卓の上。
敵は教室の後ろ。
距離として十メートル前後。
俺は装備なんて何にもない。
さて、どうしようか?
答えは簡単だ。
「せりゃぁぁぁぁ!」
彼女がが斬りかかってきた。
俺はとっさにチョークを三本同時に投げた。
当然、瞬時に真っ二つだ。
と、その瞬間に、黒板消しを投げる。
今回は刀が間に合わず、手ではたき落とした。
―――――かかった!
彼女の体を巻き込むように、大量の粉が噴出された。
その隙に、自分も飛び込み、刀を持っている方の手首をひねり、刀を奪い取る。
完璧だった。
しかし、まさかの欠点があった。
それは、彼女はもう一本もっていた、ということだった。
それですぐさま斬りかかってくるので、奪い取った刀でガードする。
実は、毎日駅を通過する列車の速度になれているため、軽々とよけられるのだ。僕の視界的には、スローモーションの少し速いばんくらいに見える。
それでも斬りかかってきやがった。
キュィン!と音を響かせ、刀と刀がぶつかり合う。さらに速度も上がっている。
このままではらちがあかない。
(仕方ない。あれを使うか)
俺は一歩退いて、刀をやつに向けて投げた。
刀は回転しながらやつの方に飛んでいくが、ジャンプして軽くよけられると同時に、斬りかかってくる。
―――――ここだ!
彼女の下をスライディングし、後ろに回る。そして、両手をひねりあげた。合気道の技だ。
そして、そのままどんどんとひねっていく。
すると、彼女は正気を取り戻したのか、床にへたり込んでいった。
こうして、戦争は終わった。
放課後。
「いや~、すごかったな~」
森谷がのんきそうに言ってくる。
こっちとしては死にそうだったのだが。
おまえのために戦ったんだぞ!
一つ引っかかるのは、何故彼女は斬りかかったのだろうかということ。
刀については突っ込まないとして、あそこまでする必要があったのだろうか?
何か特別な理由でもあるのだろうか?
思考回路が複雑になってきたため、それ以上考えるのはやめることにした。
